●歌は、「石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも」である。
●歌碑(プレート)は、奈良市春日野町 春日大社神苑萬葉植物園(51)にある。
●歌をみてみよう。
◆石激 垂見之上乃 左和良妣乃 毛要出春尓 成来鴨
(志貴皇子 巻八 一四一八)
≪書き下し≫石走(いはばし)る垂水(たるみ)の上(うへ)のさわらびの萌(も)え出(い)づる春になりにけるかも
(訳)岩にぶつかって水しぶきをあげる滝のほとりのさわらびが、むくむくと芽を出す春になった、ああ。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
注)いはばしる【石走る・岩走る】分類枕詞:動詞「いはばしる」の意から「滝」「垂水(たるみ)」「近江(淡海)(あふみ)」にかかる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
(注)たるみ【垂水】名詞:滝。(学研)
題詞は、「志貴皇子懽御歌一首」<志貴皇子(しきのみこ)の懽(よろこび)の御歌一首>とある。
この歌ならびに西陵に関しては、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その28改)」で紹介している。(初期のブログであるのでタイトル写真には朝食の写真が掲載されていますが、「改」では、朝食の写真ならびに関連記事を削除し、一部訂正しております。ご容赦下さい。)
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大阪府吹田市垂水町垂水神社の志貴皇子の歌碑については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その790,791)」で紹介している。
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志貴皇子の子供には、万葉歌人の湯原王、白壁皇子(後の光仁天皇)、春日王らがいるが、春日王ならびに湯原王の歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1077)」で紹介している。
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光仁天皇については、コトバンク ブリタニカ国際大百科事典によると「第49代の天皇 (在位 770~781) 。名は白壁。施基親王 (春日宮天皇) の王子、天智天皇の孫」とある。
(注)施基は、万葉集では「志貴」と書かれている。
「即位し、宝亀と改元。ここに皇位は天武系より天智の系統に移った。(中略)天皇は道鏡を下野に流し,和気清麻呂らを召還した。不必要な令外官を停廃し,軍団と兵士の制を縮小するなど財政の緊縮に努め,綱紀の振粛を目的とし,奈良時代の政教の腐敗を改めることに努力した。(中略)陵墓は奈良市日笠町の田原東陵。」
平成三十一年三月二十日、田原西陵や春日野町奈良県ヘリポート近くの志貴皇子の歌碑を訪ねた時、田原東陵はパスした。
本日、思い立って、プチぶらりドライブで田原東陵と大和神社近くの山辺の道、萱生集落北入口近くの万葉歌碑(巻七 一〇八八)に行ってきたのである。
こちらの歌碑も前回大和神社周辺の歌碑を巡った時、場所がわからず諦めたのであったが、いろいろと検索している時に偶然見つけたのである。ストリートビューでも確認できたのであった。
県道80号(奈良名張線)の山道をくねくねと走り続ける。田原西陵前を通過、西陵から東へ4kmほどのところにあった。
前には田んぼが広がり、拝所まで一本の参道が異空間へのアクセスロードのようになっている。
次の目的地、萱生集落北入口近くの万葉歌碑に向かう。ちょっとした峠越えである。細い薄暗い山道を慎重に走り、名阪道に入る。天理東ICから天理市を南へ。石上神社の前を通り目的地へ。
歌碑近くのスペースに車を停める。
歌をみてみよう。
◆足引之 山河之瀬之 響苗尓 弓月高 雲立渡
(柿本人麻呂歌集 巻七 一〇八八)
≪書き下し≫あしひきの山川の瀬の鳴るなへに弓月が岳にい雲立ちわたる
(訳)山川(やまがわ)の瀬音(せおと)が高鳴るとともに、弓月が岳に雲が立ちわたる。
(注)なへ 接続助詞 《接続》活用語の連体形に付く。:〔事柄の並行した存在・進行〕…するとともに。…するにつれて。…するちょうどそのとき。 ※上代語。中古にも和歌に用例があるが、上代語の名残である。(学研)
スペースには、「波多子塚古墳」の案内板が建っている。四世紀前葉ころの古墳とある。山の辺の道であるから小高くなっており、そこから大和盆地が遠望できる。
すぐ近くに「舟渡地蔵」が祀られているのでこちらもよってみた。こちらからは遠く二上山も遠望できた。
「舟渡地蔵」の説明案内板には、「むかし萱生と竹之内両村で池堀りをしていたところ一枚の石に刻まれた二体のお地蔵さんが出てきました。
お寺へ移そうとしたら運ぶ人たちの足腰に痛みがおこり、さあ大変。
お地蔵さんのたたりかと思われましたが見晴らしの良いこの場所で丁重にお祀りし供養をすると、まあ不思議。痛みはすっかり治りました。
今も腰から下の病気にはこのお地蔵さんのご利益が受けられるとき。
「天理の昔ばなし」より・・・
地元では「ぽっくり地蔵」とも呼ばれ信仰を集めています。」と書かれている。
プチぶらりドライブの終わりは、天理IC近くのNピーナッツで、どっさり豆菓子を仕入れて帰ったのである。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」
★「コトバンク ブリタニカ国際大百科事典」
★「大和神社HP」