●歌は、「故郷の明日香はあれどあをによし奈良の明日香を見らくよしも」である。
●歌碑は、奈良市高畑町 瑜伽神社にある。
●歌をみていこう。
題詞は、「大伴坂上郎女詠元興寺之里歌一首」<大伴坂上郎女、元興寺(ぐわんごうじ)の里を詠む歌一首>である。
(注)元興寺:奈良遷都後、明日香の法興寺を奈良に建て替えたもの。飛鳥寺とも呼んだ。(伊藤脚注)
◆古郷之 飛鳥者雖有 青丹吉 平城之明日香乎 見楽思好裳
(大伴坂上郎女 巻六 九九二)
≪書き下し≫故郷(ふるさと)の明日香(あすか)はあれどあをによし奈良の明日香を見らくしよしも
(訳)古京の明日香は明日香としてよい所ではあるが、新京奈良の明日香、この里を見るのはさらにいっそうすばらしい。(伊藤 博 著「万葉集 二」 角川ソフィア文庫)
(注)明日香はあれど:明日香は明日香としてあって、それはそれでよいが。「あれど」は下句の内容を引き立てる用法。(伊藤脚注)
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この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その40改)」で、奈良市芝新屋町元興寺塔跡の歌碑とともに紹介している。
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瑜伽神社(ゆうがじんじゃ)は、奈良ホテルの東側にあり、国道169号線を少し入った小径をしばらく行き左折すると一の鳥居がある。
結構な参道石段を登りつめると美しい社殿がある。天気が良ければ大和三山も見えるそうである。古の飛鳥京にその佇まいが似ていることから「平城(なら)の飛鳥」ともいわれている。
社殿の東側に「飛鳥の御井」と並んで大伴坂上郎女の万葉歌碑がある。
(注)ゆが【瑜伽】〘名〙 (yoga の音訳、「相応」と訳す) 仏語。呼吸を調えるなどの方法によって心を統一し、より高い境地に入ろうとする修行法。心の統一修行により絶対者と合一することで、密教では修行者の身口意と仏の身口意が合致すること。いわゆるヨガと本質的には同じものである。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典)
境内の灯篭に「文化十三年丙子 三月吉日」と刻されている。1816年である。時の流れをしみじみと感じさせてくれる。
瑜伽神社の万葉歌碑を巡ったあとは、鹿と戯れに散歩と洒落こむ。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」