万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2396)―

■くり■

「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)より引用させていただきました。

●歌は、「瓜食めば子ども思ほゆ栗食めばまして偲はゆいづくより来りしものぞまなかひにもとなかかりて安寐し寝さぬ」である。

千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園万葉歌碑(プレート)(山上憶良) 20230926撮影



●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆宇利波米婆 胡藤母意母保由 久利波米婆 麻斯堤葱斯農波由 伊豆久欲利 枳多利斯物能曽 麻奈迦比尓 母等奈可利堤 夜周伊斯奈佐農

     (山上憶良 巻五 八〇二)

 

≪書き下し≫瓜食(うりはめ)めば 子ども思ほゆ 栗(くり)食めば まして偲(しぬ)はゆ いづくより 来(きた)りしものぞ まなかひに もとなかかりて 安寐(やすい)し寝(な)さぬ

 

(訳)瓜を食べると子どもが思われる。栗を食べるとそれにも増して偲(しの)ばれる。こんなにかわいい子どもというものは、いったい、どういう宿縁でどこ我が子として生まれて来たものなのであろうか。そのそいつが、やたら眼前にちらついて安眠をさせてくれない。(同上)

(注)まして偲(しぬ)はゆ:それにも増して偲ばれる。「偲(しぬ)ふ」は「偲(しの)ふ」に同じ。(伊藤脚注)

(注)まなかひ【眼間・目交】名詞:目と目の間。目の辺り。目の前。 ※「ま」は目の意、「な」は「つ」の意の古い格助詞、「かひ」は交差するところの意。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)もとな 副詞:わけもなく。むやみに。しきりに。 ※上代語。(学研)

(注)やすい【安寝・安眠】名詞:安らかに眠ること。安眠(あんみん)。 ※「い」は眠りの意(学研)

 

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感想(1件)

 この歌については、八〇〇から八〇五歌までの三部作となっているが、三部作と共に、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1508)」で紹介している

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 八〇二歌に詠まれている「瓜」と「栗」についてみてみよう。

 

■瓜■

 「瓜」については、廣野 卓著「食の万葉集」(中公新書)の中に、「ウリ類の種子(ユウガオ・ヒョウタン・マクワウリ)が、奈良県唐古(からこ)遺跡をはじめとして、静岡県登呂(とろ)遺跡・韮山山木(にらやまやまき)遺跡、愛媛県土居窪(どいくぼ)遺跡など各地の縄文・弥生遺跡から出土しているので、上古からの重要な食料であったことは明らかである。憶良が詠んだウリはマクワウリだが、熟瓜(ほぞち)や保蘇治(ほぞち)瓜もマクワウリのことで、黄色のウリもあった。甘いマクワウリは子供のおやつとして最適だが、ウリ類のなかでは、かなり高価である。(『奈良朝食生活の研究』)・・・『長屋王家木簡』に、加須津毛(かすづけ)瓜や醤津毛(ひしおづけ)瓜などと書かれているのはアオウリであろう。これを酒粕漬けや醤漬けにしたもの・・・」と書かれている。

 万葉集で、「瓜」が詠まれているのはこの一首だけである。

 

■栗■

 「栗」については、上述の「食の万葉集」の中に、「クリは堅果類のなかでは最も風味がよく、三内丸山(さんないまるやま)遺跡から出土したクリのDNAバンド(配列)の分析により、すでに縄文時代には、優良種を選択的に栽培した可能性があると推測されている。『書紀』神功皇后紀、履中(りちゅう)紀、欽明紀に栗園の記述があるので、古墳時代には栽培されていたことは確実である。日本古来のクリはシバグリである。現在のクリは品種改良の手が加えられているとはいえ、古代びとが食料とした堅果類のなかで、現在も引きつづき一般に多食されているのはクリだけである。・・・関西では丹波栗が品質の良さで有名だが、すでに奈良時代から丹波国はクリの産地であったから、その伝統をつたえるものだろう。」と書かれている。

 万葉集には栗を詠んだ歌は三首収録されている。これらについてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その477)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)

★「食の万葉集」 廣野 卓著 (中公新書

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」