万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2397)―

■けやき■

「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)より引用させていただきました。

●歌は、「泊瀬の斎槻が下に我が隠せる妻あかねさし照れる月夜に人見てむかも」である。

千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園万葉歌碑(プレート)(柿本人麻呂歌集) 20230926撮影

●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。

 

●歌をみていこう。

◆長谷 弓槻下 吾隠在妻 赤根刺 所光月夜迩 人見點鴨 <一云人見豆良牟可>

      (柿本人麻呂歌集 巻十一 二三五三)

 

≪書き下し≫泊瀬(はつせ)の斎槻(ゆつき)が下(した)に我(わ)が隠(かく)せる妻(つま)あかねさし照れる月夜(つくよ)に人見てむかも」である。<一には「人みつらむか」といふ>

 

(訳)泊瀬(はつせ)のこんもり茂る槻の木の下に、私がひっそりと隠してある、大切な妻なのだ。その妻を、あかあかと隈(くま)なく照らすこの月の夜に、人が見つけてしまうのではなかろうか。<人がみつけているのではなかろうか>(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)泊瀬の斎槻:人の立ち入りを禁じる聖域であることを匂わす。「泊瀬」は隠処(こもりく)の聖地とされた。「斎槻」は神聖な槻の木。(伊藤脚注)

(注)いつき【斎槻】名詞:神が宿るという槻(つき)の木。神聖な槻の木。一説に、「五十槻(いつき)」で、枝葉の多く茂った槻の木の意とも。※「い」は神聖・清浄の意の接頭語。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)あかねさし【茜さし】 枕詞:茜色に美しく映えての意で、「照る」にかかる。 (weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

 

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 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2103)」で紹介している。

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「槻」については、「万葉神事語辞典」(國學院大學デジタルミュージアム)に、「けやきの古名。ニレ科の落葉高木。東アジアの山野に自生し、葉は狭卵形で先はとがり、縁には鋸歯がある。4~5月、新葉とともに淡黄緑色の小さな花が咲く。果実は堅く、球形で10月褐色に熟す。樹の勢いが盛んなことから、古来神聖視され、その樹下も聖域とみなされていた。紀では法興寺飛鳥寺)の槻木の下で重要な儀式や行事がたびたび行われていたことが記されている。また雄略記の『三重の采女』では、百枝槻(ももえつき)の下で豊楽(とよのあかり)を催したとき、杯に浮かんだ槻の葉にちなんで、天皇の治世を讃美する歌を詠む。歌は『新嘗屋に 生い立てる 百足る 槻が枝は 上つ枝は 天を覆へり 中つ枝は 東を覆へり 下枝は 鄙を覆へり』(99)というように『日代の宮』を居所とした景行天皇の理想的な治世を槻木に託して歌い出し、『長谷の百枝槻』と重ねることによって雄略天皇の治世が景行を受け継ぎ繁栄したことを詠む。また万葉集においては、人麻呂の泣血哀慟作歌に『槻の木のあちこちの枝に葉が一面繁るように幾重にも恋した妻』(2-210、213)というように葉が繁茂する様子を恋の深さに喩えている。また『ユ槻(弓槻)』(11-2353)、『イハヒ槻(斎槻)』(11-2656)などの形で用いられ、11-2353は人目をはばかって槻の下に妻を隠す姿を詠み、『隠り妻』のイメージを引き出している。2656は『隠り妻』を槻木に擬えており、神聖な槻木から神迎えの場を想起させている。」と書かれている。

 

神事語辞典に沿って「槻」の歌をみてみよう。

 

■二一〇歌■

◆打蝉等 念之時尓<一云宇都曽臣等念之> 取持而 吾二人見之 趍出之 堤尓立有 木之 己知碁智乃枝之 春葉之 茂之如久 念有之 妹者雖有 馮有之 兒等尓者雖有 世間乎 背之不得者 蜻火之 燎流荒野尓 白妙之 天領巾隠 鳥自物 朝立伊麻之弖 入日成 隠去之鹿齒 吾妹子之 形見尓置有 若兒乃 乞泣毎 取與 物之無者 鳥徳自物 腋挟持 吾妹子与 二人吾宿之 枕付 嬬屋之内尓 晝羽裳 浦不楽晩之 夜者裳 氣衝明之 嘆友 世武為便不知尓 戀友 相因乎無見 大鳥乃 羽易乃山尓 吾戀流 妹者伊座等 人云者 石根左久見手 名積来之 吉雲曽無寸 打蝉等 念之妹之 珠蜻 髪髴谷裳 不見思者

         (柿本人麻呂 巻二 二一〇)

 

≪書き下し≫うつせみと 思ひし時に<一には「うつそみと思ひし」といふ> 取り持ちて 我(わ)がふたり見し 走出(はしりで)の 堤(つつみ)に立てる 槻(つき)の木の こちごちの枝(え)の 春の葉の 茂(しげ)きがごとく 思へりし 妹(いも)にはあれど 頼めりし 子らにはあれど 世間(よのなか)を 背(そむ)きしえねば かぎるひの 燃ゆる荒野(あらの)に 白栲(しろたへ)の 天領巾(あまひれ)隠(がく)り 鳥じもの 朝立(あさだ)ちいまして 入日(いりひ)なす 隠(かく)りにしかば 我妹子(わぎもこ)が 形見(かたみ)に置ける みどり子の 乞ひ泣くごとに 取り与ふる 物しなければ 男(をとこ)じもの 脇(わき)ばさみ持ち 我妹子と ふたり我が寝(ね)し 枕付(まくらづ)く 妻屋(つまや)のうちに 昼はも うらさび暮らし 夜はも 息づき明かし 嘆けども 為(せ)むすべ知らに 恋ふれども 逢ふよしをなみ 大鳥(おほとり)の 羽がいひの山に 我(あ)が恋ふる 妹はいますと 人の言へば 岩根(いはね)さくみて なづみ来(こ)し よけくもぞなき うつせみと 思ひし妹が 玉かぎる ほのかにだにも 見えなく思へば

 

(訳)あの子がずっとうつせみのこの世の人だとばかり思い込んでいた時に<うつそみのこの世の人だとばかり思い込んでいた>、手に取りかざしながらわれらが二人して見た、長く突き出た堤に立っている槻の木の、そのあちこちの枝に春の葉がびっしり茂っているように、絶え間なく思っていたいいとしい子ではあるが、頼りにしていたあの子ではあるが、常なき世の定めに背くことはできないものだから、陽炎(かげろう)の燃え立つ荒野に、真っ白な天女の領布(ひれ)に蔽(おほ)われて、鳥でもないのに朝早くわが家をあとにして行かれ、山に入り沈む日のように隠れてしまったので、あの子が形見に残していった幼な子が物欲しさに泣くたびに、何をあてごうてよいやらあやすすべも知らず、男だというのに小脇に抱きかかえて、あの子と二人して寝た離れの中で、昼はうら寂しく暮らし、夜は溜息(ためいき)ついて明かし、こうしていくら嘆いてもどうしようもなく、いくら恋い慕っても逢える見込みもないので、大鳥の羽がいの山に私の恋い焦がれるあの子はいると人が言ってくれるままに、岩を押しわけ難渋してやって来たが、何のよいこともない。ずっとこの世の人だとばかり思っていたあの子の姿がほんのりともみえないことを思うと。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)「取り持ちて・・・茂きがごとく」:軽の歌垣の思いでを譬喩に用いたもの。(伊藤脚注)

(注)走出の堤:長く突き出た堤。「堤」は「槻」とともに軽の池のもの。(伊藤脚注)

(注の注)はしりで【走り出】家から走り出たところ。家の門の近く。一説に山裾(すそ)や堤などが続いているところ。「わしりで」とも。(学研)

(注)こちごち【此方此方】代名詞:あちこち。そこここ。 ※上代語。(学研)

(注)せけん【世間】名詞:①俗世。俗人。生き物の住むところ。◇仏教語。②世の中。この世。世の中の人々。③あたり一面。外界。④暮らし向き。財産。(学研)

(注の注)世間:この世は無常だという定め。「世間」は仏教語「世間空」の翻読後。その最初の用例。(伊藤脚注)

(注)かぎるひ:輝く陽。陽光。(伊藤脚注)

(注)あまひれ【天領巾】名詞:天人が身につける美しい装飾用の布。あまつひれ。(学研)

(注の注)ひれ【領布】古代の女性が用いた両肩からかける布。別名 領巾、肩巾、比礼(学研)

(注)こもり【籠り・隠り】名詞:①閉じこもって隠れること。②(ある一定期間を)寺社に泊まりこんで祈願すること。参籠(さんろう)。おこもり。(学研)

(注)天領巾隠り:柩に納めた妻の美的表現。(伊藤脚注)

(注)とりじもの【鳥じもの】枕詞:鳥のようにの意から「浮き」「朝立ち」「なづさふ」などにかかる。 ※「じもの」は接尾語。(学研)

(注)みどりこ【嬰児】名詞:おさなご。乳幼児。 ※後には「みどりご」とも。(学研)

(注)をとこじもの【男じもの】副詞:男であるのに。 ※「じもの」は接尾語。(学研)

(注)まくらづく【枕付く】分類枕詞:枕が並んでくっついている意から、夫婦の寝室の意の「妻屋(つまや)」にかかる。(学研)

(注)つまや【妻屋】名詞:夫婦の寝所。「寝屋(ねや)」とも。(学研)

(注)おほとりの【大鳥の】:[枕]大鳥の両翼が重なり合う「羽交い」の意から、地名の「羽易 (はがひ) 」にかかる。(goo辞書)

(注)羽がひの山:妻を隠す山懐を鳥の羽がいに見立てたもので、天理市桜井市にまたがる竜王山か。(伊藤脚注)

(注)さくむ [動マ四]:岩や木の間を押し分け、踏み分けて行く。(weblio辞書 デジタル大辞泉

(注)なづむ【泥む】自動詞:①行き悩む。停滞する。②悩み苦しむ。③こだわる。気にする。(学研)

(注)よけく【良けく・善けく】:よいこと。 ※派生語。上代語。 ⇒なりたち 形容詞「よし」の上代の未然形+接尾語「く」(学研)

(注)たまかぎる【玉かぎる】分類枕詞:玉が淡い光を放つところから、「ほのか」「夕」「日」「はろか」などにかかる。また、「磐垣淵(いはかきふち)」にかかるが、かかり方未詳。(学研)

 

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■二一三歌■

◆宇都曽臣等 念之時 携手 吾二見之 出立 百兄木 虚知期知尓 枝刺有如 春葉 茂如 念有之 妹庭雖在 恃有之 妹庭雖有 世中 背不得者 香切火之 燎流荒野尓 白栲 天領巾隠 鳥自物 朝立伊行而 入日成 隠西加婆 吾妹子之 形見尓置有 緑兒之 乞哭別 取委 物之無者 男自物 腋挟持 吾妹子與 二吾宿之 枕附 嬬屋内尓 日者 浦不怜晩之 夜者 息衝明之 雖嘆 為便不知 唯戀 相縁無 大鳥 羽易山尓 汝戀 妹座等 人云者 石根割見而 奈積来之 好雲叙無 宇都曽臣 念之妹我 灰而座者

      (柿本人麻呂 巻二 二一三)

 

≪書き下し≫うつそみと 思ひし時に たづさはり 我(わ)がふたり見し 出立(いでたち)の 百枝(ももえ)槻(つき)の木(き) こちごちに 枝(えだ)させるごと春の葉の 茂(しげ)きがごとく 思へりし 妹(いも)にはあれど 頼めりし 妹にはあれど 世間(よのなか)を 背(そむ)きしえねば かぎるひの 燃ゆる荒野(あらの)に 白栲(しろたへ)の 天(あま)領巾(ひれ)隠(がく)り 鳥じもの 朝立(あさだ)ち行きて 入日(いりひ)なす 隠(かく)りにしかば 我妹子(わぎもこ)が 形見(かたみ)に置ける みどり子の 乞ひ泣くごとに 取り委(まか)する 物しなければ 男(をとこ)じもの 脇(わき)ばさみ持ち 我妹子(わぎもこ)と 二人我(わ)が寝(ね)し 枕(まくら)付(づ)く 妻屋(つまや)のうちに 昼(ひる)は うらさび暮らし 夜(よる)は 息づき明かし 嘆けども 為(せ)むすべ知らに 恋ふれども 逢ふよしをなみ 大鳥(おほとり)の 羽(は)がひの山に 汝(な)が恋ふる 妹はいますと 人の言へば 岩根(いはね)さくみて なづみ来(こ)し よけくもぞなき うつせみと 思ひし妹が 灰にていませば

 

(訳)あの子はずっとこの世の人だと思っていた時に、手を携えて二人して見た、まっすぐに突き立つ百枝(ももえ)の槻(つき)の木、その木がありこちに枝を伸ばしているように、その春の葉がびっしりと茂っているように、絶え間なく思っていたいとしい子ではあるが、頼りにしていたあの子ではあるが、常なき世の定めに背くことはできないものだから、陽炎(かげろう)の燃え立つ荒野に、まっ白な天女の領布(ひれ)に蔽われて、鳥でもないのに朝早くわが家をあとにして行き、山に入る日のように隠れてしまったので、あの子が形見に残していった幼な子が物欲しさに泣くたびに、何をやってよいやらあやすすべを知らず、男だというのに、小脇に抱きかかえて、あの子と二人して寝た離れの中で、昼はうら寂しく暮らし、夜は溜息ついて明かし、こうしていくら嘆いてもどうしようもなく、いくら恋い慕っても逢(あ)える見こみもないので、「大鳥の羽がいの山にあなたの恋い焦がれるお方はおいでになります」と人が言ってくれたままに、岩根を押しわけて難渋してやって来たが、何のよいこともない。ずっとこの世の人だとばかり思っていたあの子が、空しくも灰となっておいでになるので。(同上)

(注)いでたち【出で立ち】名詞:①(山・樹木などが)突き出てそびえている姿。②旅に出ること。出立(しゆつたつ)。出立準備。③世に出ること。立身出世。④宮仕えに出ること。出仕。⑤身なり。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)ここでは①の意

(注)ももえ【百枝】名詞:たくさんの枝。(学研)

(注)「たづさはり 我がふたり見し 出立の 百枝槻の木 こちごちに 枝させるごと春の葉の 茂きがごとく」では、軽の池で二人が逢ったことを示す表現ではない。(伊藤脚注)

(注)いでたち【出で立ち】名詞:①(山・樹木などが)突き出てそびえている姿。②旅に出ること。出立(しゆつたつ)。出立準備。③世に出ること。立身出世。④宮仕えに出ること。出仕。⑤身なり。(学研)ここでは①の意

(注)「灰にて」だと、妻は死んでいる。二一〇の「見えなく」だと、妻は山中のどこかにまだいるかもしれないことになる。(伊藤脚注)

 

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1279)」で紹介している。

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■二五〇歌■

◆速来而母 見手益物乎 山背 高村 散去毛奚留鴨

       (高市黒人 巻三 二七七)

 

≪書き下し≫早(はや)来ても見てましものを山背(やましろ)の多賀の群(たかのつきむら)散にけるかも

 

(訳)もっと早くやって来て見たらよかったのに。山背の多賀のもみじした欅(けやき)、この欅林(けやきばやし)は、もうすっかり散ってしまっている。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

 

この歌は、題詞、「高市連黒人羈旅歌八首」<高市連黒人(たけちのむらじくろひと)が羈旅(きりょ)の歌八首>のうちの一首である。

この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その572)」で紹介している。

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■一二七六歌■

◆池邊 小下 細竹苅嫌 其谷 公形見尓 監乍将偲

     (作者未詳 巻七 一二七六)

 

≪書き下し≫池の辺(へ)の小(をつき)の下(した)の小竹(しの)な刈りそね それをだに君が形見(かたみ)に見つつ偲(しの)はむ

 

(訳)池のほとりの槻の木の下の篠(しの)を刈り取らないでおくれ。せめてそれだけでも、あの方を偲ぶよすがとして眺めていたいから。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)小槻の下の小竹:欅の下。思い出の共寝の場所。

 

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1237)」で紹介している。

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■二六五六歌■

◆長谷 弓下 吾隠在妻 赤根刺 所光月夜迩 人見點鴨 <一云人見豆良牟可>

      (柿本人麻呂歌集 巻十一 二三五三)

 

≪書き下し≫泊瀬(はつせ)の斎(ゆつき)が下(した)に我(わ)が隠(かく)せる妻(つま)あかねさし照れる月夜(つくよ)に人見てむかも」である。<一には「人みつらむか」といふ>

 

(訳)泊瀬(はつせ)のこんもり茂る槻の木の下に、私がひっそりと隠してある、大切な妻なのだ。その妻を、あかあかと隈(くま)なく照らすこの月の夜に、人が見つけてしまうのではなかろうか。<人がみつけているのではなかろうか>(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)泊瀬の斎槻:人の立ち入りを禁じる聖域であることを匂わす。「泊瀬」は隠処(こもりく)の聖地とされた。「斎槻」は神聖な槻の木。

(注)いつき【斎槻】名詞:神が宿るという槻(つき)の木。神聖な槻の木。一説に、「五十槻(いつき)」で、枝葉の多く茂った槻の木の意とも。※「い」は神聖・清浄の意の接頭語。(学研)

(注)あかねさし【茜さし】 枕詞:茜色に美しく映えての意で、「照る」にかかる。 (weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

 

 

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■三二二三歌■

◆・・・神(かむ)なびの 清き御田屋(みたや)の 垣(かき)つ田(た)の 池の堤(つつみ)の 百足(ももた)らず 斎(いつき)の枝(えだ)に 瑞枝(みづえ)さす 秋の黄葉(もみぢば)・・・

       (作者未詳 巻十三 三二二三)

 

(訳)・・・神なびに清らかな御田屋の、垣内の田んぼの池の堤、その堤に生い立つ神々しいの木には、勢いよくさし延べた枝いっぱいに秋のもみじが輝く・・・(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)みたや【御田屋】:神領の田地を管理する人のいる小屋。(weblio辞書 デジタル大辞泉

(注)ももたらず【百足らず】分類枕詞:百に足りない数であるところから「八十(やそ)」「五十(いそ)」に、また「や」や「い」の音から「山田」「筏(いかだ)」などにかかる。(学研)

 

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2355)」で紹介している。

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(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版」

★「weblio辞書 デジタル大辞泉

★「goo辞書」