■しらかし■
●歌は、「あしひきの山道も知らず白橿の枝もとををに雪の降れれば」である。
●歌碑(プレート)は、千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園にある。
●歌をみていこう。
◆足引 山道不知 白牫牱 枝母等乎ゞ乎 雪落者 或云 枝毛多和ゝゝ
(柿本人麻呂歌集 巻十 二三一五)
≪書き下し≫あしひきの山道(やまぢ)も知らず白橿(しらかし)の枝もとををに雪の降れれば 或いは「枝もたわたわ」といふ
(訳)あしひきの山道のありかさえもわからない。白橿の枝も撓(たわ)むほどに雪が降り積もっているので。<枝もたわわに>(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
(注)とををなり【撓なり】形容動詞:たわみしなっている。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
(注)たわたわ【撓 撓】( 形動ナリ ):たわみしなうさま。(weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)
左注は、「右柿本朝臣人麻呂之歌集出也 但件一首 或本云三方沙弥作」<右は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ。ただし、件(くだり)の一首は、或本には「三方沙弥(みかたのさみ)が作」といふ>である。
件(くだり)の一首は、二三一五歌をさしている。
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その871)」で紹介している。
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「万葉神事語辞典(國學院大學デジタルミュージアム)」の「かし」の項に次のように書かれている。
「『樫』は材質が堅いことから作られた国字。万葉集では『橿実』(9-1742)とあり、『橿』字は『和名抄』にカシと訓むとある。しかし、『橿』は本来、モチノキ、またはマユミを表わす字であった。カシは、ブナ科コナラ属の常緑高木の総称で、日本にはアラカシ、ウバメガシ、アカガシ、シラガシ、ウラジロガシなどの種類がある。暖地に生え、晩春から初夏に花を咲かせる。葉は革のような硬さをもち、長楕円形ないし披針形で、一つの節に一枚ずつ生じ、互いに方向を異にしている。雌雄同株で、初夏、雄花はひも状の穂について垂れ下がる。秋に実るカシの木実は、ナラの木実とともに団栗(どんぐり)と呼ばれる。材質が堅いカシは木炭や弓矢などさまざまに用いられていた。『橿実之』(9-1742)は『独りかも寝む』の『独り』を導く枕詞である。カシの木の実は一殻に中身が一個しかないことから、独り寝を導く枕詞に用いられたと考えられるが、他に用例がなく、高橋虫麻呂の独創にかかる枕詞とも考えられる。また、カシは道具の素材として使われているだけでなく、信仰の対象でもあった。斉明天皇の和歌山県白浜温泉への行幸の時に額田王が作った歌(1-9)では、神聖な『可新』の木を歌っている(→厳橿)。紀の垂仁天皇25年条には、倭姫命が天照大神を磯城の厳橿の本に鎮座させ祀ったという記事を載せる。記にも雄略天皇が赤猪子のためにうたった歌謡に、御諸の『厳橿がもと』とあり、神の社にある神聖なカシの木が忌みはばかられるように近寄りがたい乙女と述べ、巫女のようなタブー的存在を象徴する木として考えられる。」
万葉集で「かし」と詠われているのは、二三一五歌と万葉神事語辞典に紹介されている、九歌と一七四二歌の三首である。
九歌については、袖ヶ浦公園万葉植物園シリーズの拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2382)」で紹介している。
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一七四二歌についても、袖ヶ浦公園万葉植物園シリーズの拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2376)」で紹介している。
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「しらかし」の薬効と用途については、熊本大学薬学部薬用植物園 「植物データベース」に、「種子、樹皮、葉のいずれも民間的に胆石症、腎石症に用いる。」と書かれている。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「万葉植物園 植物ガイド105」(袖ケ浦市郷土博物館発行)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」
★「植物データベース」 (熊本大学薬学部薬用植物園)