万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2477)―

●歌は、「妻もあらば摘みて食げまし沙弥の山野の上のうはぎ過ぎにけらずや」である。

茨城県石岡市小幡 ライオンズ広場万葉の森万葉歌碑(プレート) 20230927撮影

●歌碑(プレート)は、茨城県石岡市小幡 ライオンズ広場万葉の森にある。                   

 

●歌をみてみよう。

 

 二二〇から二二三歌の題詞は、「讃岐狭岑嶋視石中死人柿本朝臣人麿作歌一首并短歌」<讃岐(さぬき)の狭岑(さみねの)島にして、石中(せきちゅう)の死人(しにん)を見て、柿本朝臣人麻呂が作る歌一首并(あは)せて短歌>である。

(注)狭岑(さみねの)島:香川県塩飽諸島中の沙美弥島。今は陸続きになっている。(

伊藤脚注)

(注)石中の死人:海岸の岩の間に横たわる死人。(伊藤脚注)

 

◆妻毛有者 採而多宜麻之 作美乃山 野上乃宇波疑 過去計良受也

        (柿本人麻呂 巻二 二二一)

 

≪書き下し≫妻もあらば摘みて食(た)げまし沙弥(さみ)の山野(の)の上(うへ)のうはぎ過ぎにけらずや

 

(訳)せめて妻でもここにいたら、一緒に摘んで食べることもできたろうに、狭岑のやまの野辺一帯の嫁菜(よめな)はもう盛りが過ぎてしまっているではないか。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)も 接続助詞 《接続》動詞と動詞型活用助動詞の連体形に付く。①〔逆接の確定条件〕…けれども。…のに。…が。②〔逆接の仮定条件〕…ても。…としても。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)ここでは②の意

(注)食(た)げまし:一緒に摘んで食べられたろうに。死因は餓死と見ての表現。(伊藤脚注)

(注の注)たぐ【食ぐ】[動]食う。飲む。(weblio辞書 デジタル大辞泉

 

 二二〇から二二三の歌群については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1726)」で紹介している。

 梅原 猛氏は、その著「水底の歌 柿本人麿論 下」(新潮文庫)の中で、人麿が、近江以後、「彼は四国の狭岑島(さみねのしま)、そして最後には石見の鴨島(かもしま)へ流される。流罪は、中流から遠流へ、そして最後には死へと、だんだん重くなり、高津(たかつ)の沖合で、彼は海の藻くずと消える。」と書かれている。この展開にも触れている。

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沙弥島は、今は陸続きとなっているが、それ以前の姿についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1713)」で紹介している。

東山魁夷せとうち美術館もあり、その前庭には万葉歌碑やプレートが数多く立てられている。沙弥島一帯は万葉集の世界が広がるゾーンである。

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東山魁夷せとうち美術館入口 20220714撮影

 

 万葉集で、うはぎを詠んだ歌はもう一首、一八七九歌である。この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1058)」で紹介している。

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「人麻呂歌碑」について、坂出市HPに。「人麻呂が沙弥島で詠んだ和歌(長歌反歌二首)が刻まれた碑,サヌカイトつくられています。いずれも人間の真情を格調高く歌っており,万葉集を代表する歌人です。柿本人麻呂は、文武天皇の御代(700年頃),西国に朝廷からの使者としておもむき,讃岐の 国、中の水門(みなと)-丸亀市金倉川口付近)を船出して都へ向かう途中、風波をさけるた めに狭岑島(沙弥島)に寄りました。

岩場にはすでに息絶えた死者が…。そんな姿を見た人麻呂が,死者への悼みと,死者の帰りを待つであろう妻子への思いを和歌に詠みました。」と書かれている。

坂出市沙弥島 ナカンダ浜人麿歌碑 20220714撮影

 

 

同HPに、「柿本人麿碑」について、「柿本人麻呂の詠んだ和歌の心を後世に伝えるため,坂出出身の作家中河与一氏が昭和11年に建立しました。」と書かれている。

「柿本人麿碑」については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1776)」で紹介している。

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坂出市沙弥島オソゴエの浜「柿本人麿碑」 20220714撮影

 

 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「水底の歌 柿本人麿論 下」 梅原 猛 著 (新潮文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 デジタル大辞泉

★「坂出市HP」