万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2485)―

●歌は、「あしひきの山橘の色に出でよ語らひ継ぎて逢ふこともあらむ」である。

茨城県石岡市小幡 ライオンズ広場万葉の森万葉歌碑(プレート)(春日王) 20230927撮影

●歌碑(プレート)は、茨城県石岡市小幡 ライオンズ広場万葉の森にある。

●歌をみていこう。

 

題詞は、「春日王歌一首 志貴皇子之子母日多紀皇女也」<春日王(かすがのおほきみ)が歌一首 志貴皇子の子、母は多紀皇女といふ>である。

(注)多紀皇女は、天武天皇の娘。

 

◆足引之 山橘乃 色丹出与 語言継而 相事毛将有

         (春日王    巻四 六六九)

 

≪書き下し≫あしひきの山橘(やまたちばな)の色に出でよ語らひ継(つ)ぎて逢ふこともあらむ

 

(訳)山陰にくっきりと赤いやぶこうじの実のように、いっそお気持ちを面(おもて)に出してください。そうしたら誰か思いやりのある人が互いの消息を聞き語り伝えて、晴れてお逢いすることもありましょう。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)上二句「足引之 山橘乃」は序、「色に出づ」を起す。(伊藤脚注)

 

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1077)」で紹介している。

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 六六八歌(厚見王)、六六九歌(春日王)、六七〇・六七一歌(湯原王)と続いている。

 歌をみてみよう。

(注)厚見王( あつみのおほきみ):「?-? 奈良時代の官吏。

天平勝宝(てんぴょうしょうほう)6年(754)太皇太后藤原宮子の葬儀の御装束司(みそうぞくし)となる。7年伊勢(いせ)大神宮奉幣使(ほうへいし)となった。「万葉集」に久米女郎(くめの-いらつめ)とのあいだの相聞歌(そうもんか)がみえる。(コトバンク 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plus)

(注)春日王(かすがのおほきみ):安貴王の父。天平十七年四月、正四位下で没。(伊藤脚注)

(注)湯原王(ゆはらのおほきみ):?-? 奈良時代,天智天皇の孫。

施基(しきの)皇子の王子。光仁(こうにん)天皇の弟。万葉後期の代表的な歌人のひとり。「万葉集」に天平(てんぴょう)(729-749)初期の歌が19首おさめられている。(コトバンク 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plus)

(注の注)志貴皇子の子供には、万葉歌人湯原王、白壁皇子(後の光仁天皇)、春日王(六六九歌)がいる。

 

巻四の歌をみてみよう。

厚見王 六六八歌■ 

題詞は、「厚見王歌一首」<厚見王(あつみのおほきみ)が歌一首>である。

 

◆朝尓日尓 色付山乃 白雲之 可思過 君尓不有國

       (厚見王 巻四 六六八)

 

≪書き下し≫朝に日(け)に色づく山の白雲(しらくも)の思ひ過ぐべき君にあらなくに

 

(訳)朝ごと日ごとに色づいてゆく山、その山にかかる白雲がいつしか消えるように、私の心から消え去ってゆくようなあなたではないはずなのに・・・(同上)

(注)あさにけに【朝に日に】副詞:朝に昼に。いつも。「あさなけに」とも。(学研)

(注)上三句は序。「思ひ過ぐ」(思いが消える)を起す。(伊藤脚注)

(注の注)おもひすぐ【思ひ過ぐ】[動]:思う気持ちがなくなる。忘れる。(weblio辞書 デジタル大辞泉

 

 

湯原王 六七〇・六七一歌■

題詞は、「湯原王歌一首」<湯原王(ゆはらのおほきみ)が歌一首>である。

 

◆月讀之 光二来益 足疾乃 山寸隔而 不遠國

       (湯原王 巻四 六七〇)

 

≪書き下し≫月読(つくよみ)の光に来(き)ませあしひきの山さへなりて遠からなくに

 

(訳)お月様の光をたよりにおいでになって下さいませ。山が立ちはだかって遠いというわけでもないのですから。(同上)

(注)月読(つくよみ):日本神話に出てくる月の神。(日本書記では月読尊、古事記では月読命と書く)ここでは、月を神に見立ててこう呼んでいる。

(注)きへなる【来隔る】自動詞:来て遠く隔たる。(学研)

 女の立場で詠んだ歌である。

 

 この歌については、六七〇歌に和えた歌とともに拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(664)」で紹介している。

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(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 デジタル大辞泉

★「コトバンク 講談社デジタル版 日本人名大辞典+Plus」