万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2481)―

●歌は、「この雪の消残る時にいざ行かな山橘の実の照るも見む」である。

茨城県石岡市小幡 ライオンズ広場万葉の森万葉歌碑(プレート)<右手前> 20230927撮影

●歌碑(プレート)は、茨城県石岡市小幡 ライオンズ広場万葉の森にある。

 

●歌をみていこう。

 

題詞は、「雪日作歌一首」<雪の日に作る歌一首>である。

(注)雪の日:雪見の宴の歌らしい。(伊藤脚注)

 

◆此雪之 消遺時尓 去来歸奈 山橘之 實光毛将見

                (大伴家持 巻十九 四二二六)

 

≪書き下し≫この雪の消殘(けのこ)る時にいざ行かな山橘(やまたちばな)の実(み)の照るも見む

 

(訳)この雪がまだ消えてしまわないうちに、さあ行こう。山橘の実が雪に照り輝いているさまを見よう。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

(注)やまたちばな【山橘】名詞:やぶこうじ(=木の名)の別名。冬、赤い実をつける。[季語] 冬。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

左注は、「右一首十二月大伴宿祢家持作之」<右の一首は、十二月に大伴宿禰家持作る>である。

 

 

 集中、「山橘」を詠んだ歌は五首収録されている。これについては、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その664)」で紹介しているが、もう一度みてみよう。

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■六六九歌■

題詞は、「春日王歌一首 志貴皇子之子母日多紀皇女也」<春日王(かすがのおほきみ)が歌一首 志貴皇子の子、母は多紀皇女といふ>である。

(注)多紀皇女は、天武天皇の娘

 

◆足引之 山橘乃 色丹出与 語言継而 相事毛将有

        (春日王    巻四 六六九)

 

≪書き下し≫あしひきの山橘(やまたちばな)の色に出でよ語らひ継(つ)ぎて逢ふこともあらむ

 

(訳)山陰にくっきりと赤いやぶこうじの実のように、いっそお気持ちを面(おもて)に出してください。そうしたら誰か思いやりのある人が互いの消息を聞き語り伝えて、晴れてお逢いすることもありましょう。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)山橘:やぶこうじ。上二句は序、「色に出づ」を起す。(伊藤脚注)

 

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1736)」で紹介している。

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■一三四〇歌■

◆紫 絲乎曽吾搓 足檜之 山橘乎 将貫跡念而

       (作者未詳 巻七 一三四〇)

 

≪書き下し≫紫(むらさき)の糸をぞ我(わ)が搓(よ)るあしひきの山橘(やまたちばな)を貫(ぬ)かむと思ひて

 

(訳)紫色の糸を、私は今一生懸命搓り合わせている。山橘の実、あの赤い実をこれに通そうと思って。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)「山橘を貫(ぬ)く」とは、男と結ばれることの譬え。(伊藤脚注)

 

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その765)」で、「紫の」ではじまる歌のなかで紹介している。

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■二七六七歌■

◆足引乃 山橘之 色出而 吾戀公者 人目難為名

              (作者未詳 巻十一 二七六七)

 

≪書き下し≫あしひきの山橘(やまたちばな)の色に出(い)でて我(あ)は恋ひなむ人目難(かた)みすな

 

(訳)山の木蔭の、藪柑子(やぶこうじ)のまっ赤な実のように、私は恋心をあたりかまわず顔に出してしまいそうだ。なのに、あなたが人目を気にするなんて・・・。まわりのことなんか気にしないでくれ。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)上二句「足引乃 山橘之」は、「色出」を起こす。

(注)なむ 分類連語:①…てしまおう。必ず…しよう。▽強い意志を表す。②…てしまうだろう。きっと…するだろう。確かに…だろう。▽強い推量を表す。③…ことができるだろう。…できそうだ。▽実現の可能性を推量する。④…するのがきっとよい。…ほうがよい。…すべきだ。▽適当・当然の意を強調する。(学研) ここでは③の意

(注)人目難(かた)みすな:だからあなたも人目を憚るな。(伊藤脚注)

 

 

 

■四四七一歌■

題詞は、「冬十一月五日夜小雷起鳴雪落覆庭忽懐感憐聊作短歌一首」<冬の十一月の五日の夜(よ)に、小雷起(おこ)りて鳴り、雪落(ふ)りて庭を覆(おほ)ふ。たちまちに感憐(かんれん)を懐(いだ)き、いささかに作る短歌一首>である。

 

◆氣能己里能 由伎尓安倍弖流 安之比奇乃 夜麻多知波奈乎 都刀尓通弥許奈

       (大伴家持 巻二十 四四七一)

 

≪書き下し≫消残(けのこ)りの雪にあへ照るあしひきの山橘(やまたちばな)をつとに摘(つ)み来(こ)な

 

(訳)幸いに消えずに残っている白い雪に映えて、ひとしお赤々と照る山橘、その山橘の実を、家づとにするため行って摘んでこよう。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

(注)雪にあへ照る:雪で山橘の実が、山橘の実で雪が、それぞれ照り映えるさま。「あへ」は合わせて。(伊藤脚注)

(注の注)あへ>あふ【合ふ】自動詞:①調和する。似合う。②一つになる。一致する。(学研)ここでは①の意

(注)つとに摘み来な:家への土産に摘んで来よう。夜降る雪に、明くる日の山橘を幻想した歌。難波での詠か。(伊藤脚注)

(注の注)つと【苞・苞苴】名詞:①食品などをわらで包んだもの。わらづと。②贈り物にする土地の産物。みやげ。(学研) ここでは②の意

 

左注は、「右一首兵部少輔大伴宿祢家持」<右の一首は、兵部少輔大伴宿禰家持>である。

 

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その832)」で紹介している。

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(参考文献)

萬葉集 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「高岡市万葉歴史館HP」