万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう(その2692)―書籍掲載歌を中軸に(Ⅱ)―

●歌は、「うちのぼる佐保の川原の青柳は 今は春べとなりにけるかも(大伴坂上郎  8-1433)」である。

 

佐保川

 「大伴坂上郎女(巻八‐一四三三)(歌は省略) 東大寺の転外(てがい)門から包永(かねなが)町・法蓮を経て法華寺にいたる一条南大路は佐保路または佐保大路ともいわれる。この佐保大路南北の奈良市北郊の地が佐保であって、ことに佐保川右岸から北方佐保山にかけての一帯は当時『佐保の内』ともいわれ、貴族顕官の住宅地であって大伴氏の邸宅もここにあった。したがって万葉中に出る『佐保』の名も延べて四一を数えるほどである。佐保川春日山中にでて北方の山麓を西に迂回し、法蓮で吉城(よしき)川をあわせ佐保を西流して、法華寺の南方で南にまがり、大和郡山をすぎて磯城郡川西村北吐田(はんた)で初瀬川と合流する川である。当時の羅城門址は川筋の変化でいま佐保川の川底になっている。佐保川が佐保をすぎて平城京裡を縦断しているから、四季の風趣につけ抒情のたより場ともなって、(巻七‐一一二三)(巻七‐一二五一)(歌は省略)の歌のように、ことに千鳥(七首)かじか(二首)がうたわれている。・・・JRの鉄橋から西の堤に出れば、今は春べの趣きもしのぶことができる。・・・『うち上る』は流れに沿ってのぼってゆく呼吸であろうか。すなおな、春のあゆみを思わせるような、調子をととのえた歌だ。」(「万葉の旅 上 大和」 犬養 孝 著 平凡社ライブラリーより)

 

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 巻八 一四三三歌をみていこう。

■巻八 一四三三歌■

 ◆打上 佐保能河原之 青柳者 今者春部登 成尓鶏類鴨

        (大伴坂上郎女 巻八 一四三三)

 

≪書き下し≫うち上(のぼ)る佐保の川原(かはら)の青柳は今は春へとなりにけるかも

 

(訳)馬を鞭(むち)打っては上る佐保の川原の柳は、緑に芽吹いて、今はすっかり春らしくなってきた。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)うち上る:私が遡って行く。(伊藤脚注)

(注の注)うち【打ち】接頭語:〔動詞に付いて、語調を整えたり下の動詞の意味を強めて〕①ちょっと。ふと。「うち見る」「うち聞く」②すっかり。「うち絶ゆ」「うち曇る」③勢いよく。「うち出(い)づ」「うち入る」 ⇒語法動詞との間に助詞「も」が入ることがある。「うちも置かず見給(たま)ふ」(『源氏物語』)〈下にも置かずにごらんになる。〉 ⇒注意:「打ち殺す」「打ち鳴らす」のように、打つの意味が残っている複合語の場合は、「打ち」は接頭語ではない。打つ動作が含まれている場合は動詞、含まれていない場合は接頭語。「うち」は接頭語、(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)はるべ【春方】名詞:春のころ。春。 ※古くは「はるへ」(学研)

 

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その10改)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 

奈良市法蓮町佐保川堤万葉歌碑(大伴坂上郎女 8-1433) 20190306撮影

 

 佐保川及び歌碑(星印)ならびにJRの踏切(▼)は下記の地図を参照してください。(地図の「夢窓庵」は2016年に水門町に移転している。)

 

グーグルマップより引用、加筆させていただきました。



 

 

 

 

次に巻七‐一一二三ならびに巻七‐一二五一歌をみてみよう。

■巻七 一一二三歌■

◆佐保河之 清河原尓 鳴知鳥 河津跡二 忘金都毛

       (作者未詳 巻七 一一二三)

 

≪書き下し≫佐保川(さほがは)の清き川原(かはら)に鳴く千鳥(ちどり)かはずと二つ忘れかねつも

 

(訳)佐保川の清らかな川原で鳴く千鳥、そして河鹿とこの二つのものは、忘れようにも忘れられない。(同上)

(注)千鳥と河鹿と二つのものは、共に佐保川の有名な景物。(伊藤脚注)

 

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その9改)」で、佐保川小学校を背にした佐保川堤の万葉歌碑とともに紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

佐保川小学校を背に佐保川堤の万葉歌碑(作者未詳 7-1123) 20190306撮影



 

 

 

■巻七 一二五一歌■

◆佐保河尓 鳴成智鳥 何師鴨 川原乎思努比 益河上

       (作者未詳 巻七 一二五一)

 

≪書き下し≫佐保川(さほがは)に鳴くなる千鳥(ちどり)何しかも川原(かはら)を偲(しの)ひいや川上(のぼ)る

 

(訳)佐保川で鳴いている千鳥よ、何でそんなに川原をいとしんで、ずんずん川を上(のぼ)って来るのか。(同上)

(注)鳴くなる千鳥:鳴いている千鳥よ。男の譬え。(伊藤脚注)

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉の旅 上 大和」 犬養 孝 著 (平凡社ライブラリー

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「グーグルマップ」