●歌は、「佐保川の清き河原に鳴く千鳥かはずと二つ忘れかねつも」である。
●歌をみていこう。
題詞、鳥を詠むの三首のうちの一つである。
◆佐保河之 清河原尓 鳴知鳥 河津跡二 忘金都毛
(作者未詳 巻七 一一二三)
≪書き下し≫佐保川(さほがは)の清き川原(かはら)に鳴く千鳥(ちどり)かはずと二つ忘れかねつも
(訳)佐保川の清らかな川原で鳴く千鳥、そして河鹿とこの二つのものは、忘れようにも忘れられない。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)
奈良県HPのコンテンツ「はじめての万葉集」によると「千鳥の名前は「チ、チ」という鳴き声に由来するとも云われます。千鳥の鳴く様子は『万葉集』にも多く詠まれ、「淡海の海夕波千鳥なが鳴けば心もしのにいにしえ思ほゆ」(柿本朝臣人麻呂 巻三 二六六)とあるように、その鳴き声は万葉びとの心に訴えかける情緒的なものだったようです」とある。
また、千鳥とかわずの二つが忘れられないのは、鳴き声が美しいからと思われる。このことから、この「かはづ」は「カジカガエル(河鹿蛙)」のことであろう。
題詞「詠鳥」に収録されている他の二首をみてみる。
(題詞)詠鳥
◆山際尓 渡秋沙乃 行将居 其河瀬尓 浪立勿湯目
(作者未詳 巻七 一一二二)
≪書き下し≫山の際(ま)に渡るあきさの行(ゆ)きて居(ゐ)むその川の瀬に波立つなゆめ
(訳)山あいを鳴き渡るあいさ鴨が飛んで行って降り立つであろう、その川の瀬に波よ立つな、けっして。(同上)
(注)あきさ:鴨に似た渡り鳥。「あいさ」ともいう。鴨の仲間。派手な色をして鴨のような体に鵜のような細いくちばしをもつ。
◆佐保川尓 小驟千鳥 夜三更而 尓音聞者 宿不難尓
(作者未詳 巻七 一一二四)
≪書き下し≫佐保川に騒(さわ)ける千鳥さ夜(よ)更(ふ)けて汝(な)が声聞けば寐寝(いね)かてなくに
(訳)佐保川で鳴き騒いでいる千鳥よ、夜が更けてからお前の声を聞くと、寝ようにも寝られない。(同上)
(注)いねがてにす【寝ねがてにす】分類連語:寝付きにくくなる。 ⇒なりたち 動詞「いぬ」の連用形+補助動詞「かつ」の未然形+打消の助動詞「ず」の上代の連用形「に」+サ変動詞「す」からなる「いねかてにす」の濁音化。(学研)
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「万葉ゆかりの地をたづねて~万葉歌碑めぐり~」(奈良市HP)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」
★「京都府HP」
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