●歌は、「彦星の妻迎へ舟漕ぎ出らし天の川原に霧の立てるは」である。
●歌をみていこう。
◆牽牛之 迎嬬船 己藝出良之 天漢原尓 霧之立波
(山上憶良 巻八 一五二七)
≪書き下し≫彦星(ひこぼし)の妻迎(むか)へ舟(ぶね)漕(こ)ぎ出(づ)らし天(あま)の川原(かはら)に霧(きり)の立てるは
(訳)彦星の妻を迎えに行く舟、その舟が今漕ぎ出したらしい。天の川原に霧がかかっているところから推すと。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
この歌は、題詞「山上臣憶良七夕歌十二首」<山上臣憶良(やまのうへのおみおくら)が七夕(たなばた)の歌十二首>のうちの一首である。
そのうちの一五二七から一五二九歌三首は、一つの歌群になっている。他の二首もみてみよう。
◆霞立 天河原尓 待君登 伊往還尓 裳裾所沾
(山上憶良 巻八 一五二八)
≪書き下し≫霞(かすみ)立つ天の川原に君待つとい行き帰るに裳(も)の裾(すそ)濡(ぬ)れる
(訳)霧のかかっている天の川の川原で、あの方のおいでを待ちあぐんで行きつ戻りつしているうちに、裳の裾がすっかり濡れてしまった。(同上)
◆天河 浮津之浪音 佐和久奈里 吾待君思 舟出為良之母
(山上憶良 巻八 一五二九)
≪書き下し≫天の川(あまのがは)浮津(うきつ)の波音(なみおと)騒(さわ)くなり我が待つ君し舟出(ふなで)すらしも
(訳)天の川の浮津の波音が、音高く聞こえてくる。私がお迎えを待っているあの方が、今しも舟出をなさるらしい。(同上)
一五二七歌は、第三者の立場で、一五二八、一五二九歌は、織女の立場で詠っている。
観音山公園は、小山状の公園で、そのなかで少し高くなったところに牛の形に似た巨石があり、牽牛・彦星に例えられている。天野川を挟んで対岸の機物神社・織姫との七夕物語の舞台の一つとなっている。この公園には、2007年の全国七夕サミット枚方・交野大会の開催記念として建てられた牽牛の像がある。牽牛の像に並ぶ形で歌碑が設置されている。
対岸の機物神社の歌碑と同じような仕様になっており、ハート形があしらわれている。仲睦ましいことである。
予定していた交野市と枚方市の万葉歌碑を巡り終えたので、帰宅途中に「ほしだ園地」をのぞいてみた。交野の地は、七夕伝説の里であり、星降る里のシンボルという意味合いで、「星のブランコ」という愛称の吊り橋がある。標高180m、全長280m、最大地上高50mの木床版吊り橋で、人道吊り橋としては全国的にも最大級の規模をほこっている。下から見上げただけであったがなかなかのものである。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「大阪府みどり公社HP」