万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2491)―

●歌は、「あしひきの山さな葛もみつまで妹に逢はずや我が恋ひ居らむ」である。

茨城県石岡市小幡 ライオンズ広場万葉の森万葉歌碑(プレート) 20230927撮影

●歌碑(プレート)は、茨城県石岡市小幡 ライオンズ広場万葉の森にある。

 

●歌をみていこう。

◆足引乃 山佐奈葛 黄變及 妹尓不相哉 吾戀将居

           (作者未詳 巻十 二二九六)

 

≪書き下し≫あしひきの山さな葛(かづら)もみつまで妹(いも)に逢はずや我(あ)が恋ひ居(を)らむ

 

(訳)この山のさな葛(かずら)の葉が色付くようになるまで、いとしいあの子に逢えないままに、私はずっと恋い焦がれていなければならないのであろうか。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)山さな葛:びなん葛か。(伊藤脚注)

(注の注)「さなかずら」の皮を剥いでぬるま湯に浸し、出て来る粘液を男性用の整髪料として使ったことから「美男葛(びなんかずら)」とも呼ばれていたようである。

(注)もみつ【紅葉つ・黄葉つ】自動詞:「もみづ」に同じ。 ※上代語。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)>もみづ【紅葉づ・黄葉づ】自動詞:紅葉・黄葉する。もみじする。 ※上代は「もみつ」。(学研)

 

この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1801)」で紹介している。

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 「さなかづら」を詠んだ歌十首については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その731)」で紹介している。

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 二二九五から二二九七歌の標題は、「寄黄葉」<黄葉(もみち)に寄す>である。部立「秋相聞」に収録されている。

 

(注)もみぢ【紅葉・黄葉】名詞:①秋に草木の葉が赤や黄に色づくこと。また、その葉。紅葉(こうよう)。[季語] 秋。②襲(かさね)の色目の一つ。表は紅、裏は青。一説に、表は赤色、裏は濃い赤色。秋に用いる。紅葉襲(もみじがさね)。 ⇒参考:(1)紅葉は秋を代表する景物の一つで、平安時代、戸外での紅葉狩りや宮廷内での紅葉の賀などの行事が盛んに行われた。また、「紅葉」といえば鹿(しか)との取り合わせが有名であるが、『万葉集』を始め、それ以後の和歌集でも、鹿はカエデではなく萩(はぎ)の花と取り合わされることが多い。本来、萩の下葉の紅葉を踏み分けて妻恋する鹿の鳴くさまが秋の情趣を代表するものであったと思われる。(2)『万葉集』では「黄葉」と表記するのがふつうで、これは中国の詩文の影響もあるだろうが、大和地方に多い雑木の黄葉に即した用字であろう。(学研)ここでは①の意

 

現代では、もみじは紅葉と書くが、万葉集の表記では、一字一音の「毛美知婆(もみちば)」のほかは、紅葉(一例)、赤葉(一例)、赤(二例)で、赤系統は計四例である。他は黄葉(七六例)、黄変(三例)、黄色(二例)、黄反(一例)と、黄系統は計八十八例にのぼっているという。(堀内民一著「大和万葉―その歌の風土」桜楓社)

 

この唯一「紅葉」と万葉仮名で表記されたのは、次の二二〇一歌である。

 これをみてみよう。

紅葉

◆妹許跡 馬▼置而 射駒山 撃越来者 紅葉散筒

        (作者未詳 巻十 二二〇一) 

    ▼は「木へんに安」である。

 

≪書き下し≫妹がりと馬に鞍置きて生駒山うち越え来れば黄葉(もみぢ)散りつつ 

(訳)いとしい子のもとへと、馬に鞍を置いて、生駒山を鞭打ち越えてくると、もみじがしきりと散っている。(伊藤 博 著「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)いもがり【妹許】:愛する妻や女性のいる所。「がり」は居所および居る方向を表す接尾語。(学研)

 

 

 「赤葉」一首と「赤」二首の歌もみてみよう。

 

赤葉

◆・・・甘南備乃 清三田屋乃 垣津田乃 池之堤之 百不足 五十槻枝丹 水枝指 秋赤葉・・・

       (作者未詳 巻十三 三二二三)

 

≪書き下し≫・・・神(かむ)なびの 清き御田屋(みたや)の 垣(かき)つ田(た)の 池の堤(つつみ)の 百足(ももた)らず 斎槻(いつき)の枝(えだ)に 瑞枝(みづえ)さす 秋の黄葉(もみぢば)・・・

 

(訳)・・・神なびに清らかな御田屋の、垣内の田んぼの池の堤、その堤に生い立つ神々しい槻の木には、勢いよくさし延べた枝いっぱいに秋のもみじが輝く・・・(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)みたや【御田屋】:神領の田地を管理する人のいる小屋。(weblio辞書 デジタル大辞泉

(注)ももたらず【百足らず】分類枕詞:百に足りない数であるところから「八十(やそ)」「五十(いそ)」に、また「や」や「い」の音から「山田」「筏(いかだ)」などにかかる。(学研)

 

 

 

秋芽子乃 下葉 荒玉乃 月之歴去者 風疾鴨

       (作者未詳 巻十 二二〇五)

 

≪書き下し≫秋萩の下葉もみちぬあらたまの月の経ぬれば風をいたみかも

 

(訳)秋萩の下葉はすっかり色づいてきた。月が改まって、風が激しくなったからであろうか。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

 

 

 

■赤■

◆秋山之 木葉文未者 今旦吹風者 霜毛置應久

        (作者未詳 巻十 二二三二)

 

≪書き下し≫秋山の木の葉もいまだもみたねば今朝吹く風は霜も置きぬべく

 

(訳)秋山の木の葉もまだ色づいていないのに、今朝吹く風は、霜でも置きそうなほどだ。(同上)

 

「紅葉」「赤葉」「赤」の歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その85改)」で生駒市小明町 生駒市体育協会総合S.C.(旧名称 生駒市総合公園)の二二〇一歌(紅葉)の歌碑とともに紹介している。

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(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「大和万葉―その歌の風土」 堀内民一 著 (桜楓社)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 デジタル大辞泉