万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2502)―

●歌は、「磯の上のつままを見れば根を延へて年深くあらし神さびにけり」である。

茨城県石岡市小幡 ライオンズ広場万葉の森万葉歌碑(プレート)(大伴家持) 20230927撮影

●歌碑(プレート)は、茨城県石岡市小幡 ライオンズ広場万葉の森にある。

 

●歌をみていこう。

 

題詞は、「過澁谿埼見巌上樹歌一首  樹名都萬麻」<澁谿(しぶたに)の埼(さき)を過ぎて、巌(いはほ)の上(うへ)の樹(き)を見る歌一首   樹の名はつまま>である。

(注)澁谿:富山県高岡市太田(雨晴)(伊藤脚注)

 

◆礒上之 都萬麻乎見者 根乎延而 年深有之 神佐備尓家里

       (大伴家持 巻十九 四一五九)

 

≪書き下し≫磯(いそ)の上(うへ)のつままを見れば根を延(は)へて年深くあらし神(かむ)さびにけり

 

(訳)海辺の岩の上に立つつままを見ると、根をがっちり張って、見るからに年を重ねている。何という神々しさであることか。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

(注)としふかし【年深し】( 形ク ):何年も経っている。年老いている。(weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

(注)あらし 分類連語:あるらしい。あるにちがいない。 ※なりたち ラ変動詞「あり」の連体形+推量の助動詞「らし」からなる「あるらし」が変化した形。ラ変動詞「あり」が形容詞化した形とする説もある。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

 「つまま」については、「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)に、「・・・『つまま』についてはマツ・タブノキ・イヌツゲなど諸説あるものの、現在は海岸地に自生し、常緑で大木ともなるタブノキクスノキ科、一名イヌクス)がそれかとみられている。タブノキ越中能登の地に多く、常緑高木は『神さびにけり』の感慨にもふさわしい」と書かれている。

 

この四一五九歌から四一六五歌までの歌群の総題は、「季春三月九日擬出擧之政行於舊江村道上属目物花之詠并興中所作之歌」<季春三月の九日に、出擧(すいこ)の政(まつりごと)に擬(あた)りて、古江の村(ふるえのむら)に行く道の上にして、物花(ぶつくわ)を属目(しょくもく)する詠(うた)、并(あは)せて興(きよう)の中(うち)に作る歌>である。

 

 四一五九歌については、つまま公園の同歌碑、さらに四一六五歌までの歌群については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その867)」で紹介している。

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 上の写真の歌碑の説明案内板は、表面の経年劣化により読みづらくなっているが、写真を拡大して何とか読み取れたので記してみた。

「・・・この歌碑は、安政五年(一八五八)に太田村伊勢領の肝煎(きもいり)(村長)宗九郎(そうくろう)が建立したものとされ、高岡では、最も古い万葉歌碑である。宗九郎は、相当の学問があり万葉集にも関心が高く、特に、都萬麻(つまま)はタモノキであると推定して一本のタモノキとこの碑を置いたとされるが、永年の風食により碑の文字を判読するのは難しい。都萬麻は、クスノキ科の常緑高木で一般にもタモまたはタブノキと呼ぶイヌグスのこととされている。老木は根が盛り上がり神々しい姿である。このことから神聖な木として扱われることが多い・・・」

案内文の後半は、家持が越中国射水郡渋谷の崎で根を露出した見慣れない大樹に驚き、初めて聞く「都万麻」(つまま)の名に異郷の風土を感じ、この歌を詠い、眼前の光景が未来永劫に続くことを願って「都万麻」の歌を詠じたと書かれている。

 江戸時代に万葉歌碑を建立する人がいたことに驚かされる。


 この歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2115)―年代を経た万葉歌碑」で紹介している。

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 その後、2023年7月5日に富山県で一番古い富山市東岩瀬 諏訪神社万葉歌碑を巡っている。

 これについては、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2323)」で紹介している。

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 2023年11月19日には、日本で一番古いとされる埼玉県行田市埼玉前玉神社の万葉歌碑(万葉灯籠)を訪れたのである。

 これについては、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2384)」で行程の概略を紹介している。(歌碑の紹介は後日の予定)

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 万葉歌碑も奥深いものがある。

 万葉集にも、万葉歌碑にも引き込まれている。

 

 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より

★「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版」