万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その2126)―①-4 奈良県宇陀市万葉歌碑―

奈良県宇陀市 かぎろひの丘万葉歌碑(巻一 四五)■

奈良県宇陀市 かぎろひの丘万葉公園万葉歌碑(柿本人麻呂) 20191216撮影

●歌をみていこう。

 

◆八隅知之 吾大王 高照 日之皇子 神長柄 神佐備世須等 太敷為 京乎置而 隠口乃 泊瀬山者 真木立 荒山道乎 石根 禁樹押靡 坂鳥乃 朝越座而 玉限 夕去来者 三雪落 阿騎乃大野尓 旗須為寸 四能乎押靡 草枕 多日夜取世須 古昔念而

        (柿本人麻呂 巻一 四五)

 

≪書き下し≫やすみしし 我(わ)が大君 高照らす 日の御子(みこ) 神ながら 神さびせすと 太(ふと)敷(し)かす 都を置きて こもくりの 泊瀬(はつせ)の山は 真木(まき)立つ 荒山道(あらやまみち)を 岩が根 禁樹(さへき)押しなべ 坂鳥(さかとり)の 朝越えまして 玉かぎる 夕(ゆふ)さりくれば み雪降る 安騎(あき)の大野(おほの)に 旗(はた)すすき 小竹(しの)を押しなべ 草枕 旅宿(たびやど)りせす いにしへ思ひて

 

(訳)あまねく天の下を支配せられるわれらが大君、天上高く照らしたまう日の神の皇子(みこ)は、神であられるままに神々しく振る舞われるとて、揺るぎなく治められている都さえもあとにして、隠り処(こもりく)の泊瀬の山は真木の茂り立つ荒々しい山道なのに、その山道を岩や遮(さえぎ)る木々を押し伏せて、朝方、坂鳥のように軽々とお越えになり、光かすかな夕方がやってくると、み雪降りしきる安騎の荒野(あらの)で、旗のように靡くすすきや小竹(しん)を押し伏せて、草を枕に旅寝をなさる。過ぎしいにしえのことを偲んで。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)やすみしし【八隅知し・安見知し】分類枕詞:国の隅々までお治めになっている意で、「わが大君」「わご大君」にかかる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)たかてらす【高照らす】分類枕詞:空高く照るの意で、「日」にかかる。(学研)

(注)ふとしく【太敷く】他動詞:居を定めてりっぱに統治する。(宮殿を)りっぱに造営する。(柱を)しっかり立てる。(学研)

(注)こもりくの【隠り口の】分類枕詞:大和の国の初瀬(はつせ)の地は、四方から山が迫っていて隠れているように見える場所であることから、地名の「初(=泊)瀬」にかかる。(学研)

(注)さへき【禁樹】名詞:通行の妨げになる木。(学研)

(注)さかどりの【坂鳥の】分類枕詞:朝早く、山坂を飛び越える鳥のようにということから「朝越ゆ」にかかる。(学研)

(注)たまかぎる【玉かぎる】分類枕詞:玉が淡い光を放つところから、「ほのか」「夕」「日」「はろか」などにかかる。また、「磐垣淵(いはかきふち)」にかかるが、かかり方未詳。(学研)

(注)はたすすき【旗薄】名詞:長く伸びた穂が風に吹かれて旗のようになびいているすすき。(学研)

(注)いにしへ:亡き父草壁皇子の阿騎野遊猟をいう。(伊藤脚注)

 

 四五歌(長歌)と四六から四九歌(短歌)の歌群の題詞は、「軽皇子宿干安騎野時柿本朝臣人麻呂作歌」<軽皇子、安騎(あき)の野に宿ります時に、柿本朝臣人麻呂が作る歌>である。

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感想(1件)

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その370)」で紹介している。

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奈良県宇陀市 かぎろひの丘万葉歌碑(巻一 四八)■

 かぎろひの丘にはもう一基万葉歌碑が立てられている。

奈良県宇陀市 かぎろひの丘万葉歌碑(柿本人麻呂) 20191216撮影

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その369)」で紹介している。

同歌は、阿騎野人麻呂公園の人麻呂像の台座にも刻されている。こちらは「同(その368)」で紹介している。

 ➡ 

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 奈良県ビジターズビューローHP「あをによしなら旅ネット」にかぎろひの丘万葉公園について、「万葉植物の植栽や東屋、遊歩道を整備。その他に柿本人麻呂の歌碑があり、はるか万葉のロマンにひたることができます。万葉集にうたわれた阿騎野、万葉歌碑、遊歩道、休憩所有」と書かれている。

 

 

四五歌(長歌)と四六から四九歌(短歌)の歌群と歌碑

 四五歌ならびに四八歌の紹介は上述のとおり。

 四六歌は拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その372)」で、四七歌は同(その373)」、 四九歌は同(その371)で紹介している。

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 宇陀市内の万葉歌碑巡りには、宇陀市HPから「市内の万葉歌碑マップ」をダウンロードして活用するのが良いと思います。


小生も活用して2019年12月16日と20日ですべてをまわりました。(資料は20日に市役所に行きいただきました。)

 

 

宇陀市榛原区山辺三 山部赤人墓万葉歌碑(巻十七 三九一五)■

宇陀市榛原区山辺三 山部赤人墓万葉歌碑(山部赤人) 20191220撮影

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その374)」で紹介している。

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■榛原赤埴 赤埴甲公民館万葉歌碑(巻七 一三七六)■

榛原赤埴 赤埴甲公民館万葉歌碑(作者未詳) 20191220撮影

 

●歌をみていこう。

 

◆山跡之 宇陀乃真赤土 左丹著者 曽許裳香人之 吾乎言将成

         (作者未詳 巻七 一三七六)

 

≪書き下し≫大和(やまと)の宇陀(うだ)の真赤土(まはに)のさ丹(に)付(つ)かばそこもか人の我(わ)を言(こと)なさむ

 

(訳)大和(やまと)の宇陀(うだ)の真埴の赤い土がついたならば、たったそれだけのことで、世間の人は私のことをとやかく言立てるのでしょうか。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)はに【埴】名詞:赤黄色の粘土。瓦(かわら)や陶器の原料にしたり、衣にすりつけて模様を表したりする。(学研)

(注)に【丹】名詞:赤土。また、赤色の顔料。赤い色。(学研)

(注)「さ丹付く」は赤面するたとえ。(伊藤脚注)

(注)ことなす【言成す】他動詞:言葉に出す。あれこれ取りざたする。(学研)

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その383)」で紹介している。

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 同歌の歌碑は、県畜産試験場にもある。

畜産試験場万葉歌碑(作者未詳) 20191220撮影



 県畜産試験場の歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その381)」で紹介している。

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(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「あをによしなら旅ネット」 (奈良県ビジターズビューローHP)

★「市内の万葉歌碑マップ」 (宇陀市HP)