●歌は、「下つ毛野三毳の山のこ楢のすまぐはし子ろは誰が笥か持たむ」である。
●歌をみていこう。
◆之母都家野 美可母乃夜麻能 許奈良能須 麻具波思兒呂波 多賀家可母多牟
(作者未詳 巻十四 三四二四)
≪書き下し≫下(しも)つ毛(け)野(の)三毳(みかも)の山のこ楢(なら)のすまぐはし子ろは誰(た)か笥(け)か持たむ
(訳)下野の三毳の山に生(お)い立つ小楢の木、そのみずみずしい若葉のように、目にもさわやかなあの子は、いったい誰のお椀(わん)を世話することになるのかなあ。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)
(注)下野:栃木県
(注)三毳の山:佐野市東方の山。大田和山ともいう。(伊藤脚注)
(注)す+形容詞:( 接頭 ) 形容詞などに付いて、普通の程度を超えている意を添える。 「 -早い」 「 -ばしこい」(weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)
(注)まぐはし子ろは:目にもさわやかなあの子は。(伊藤脚注)
(注の注)まぐはし【目細し】形容詞:見た目に美しい。 ※「ま」は目の意。上代語。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
(注)け【笥】名詞:容器。入れ物。特に、食器。(学研)
左注は、「右二首下野國歌」<右の二首は下野の国の歌>とある。
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1145)」で、歌に出て来る「笥」に関連してやきもの関連の語句を紹介している。
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「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)の「なら・こなら(コナラ)」の項に次のように書かれている。
「コナラは、沖縄を除く全国に自生するブナ科の落葉広葉樹である。春には枝の元部に長さ7cmほどの黄緑色の雄花が多数たれ下がる。秋になると黄葉し、ドングリを実らせる。・・・『小楢のす』は、瑞々しく美しい娘を形容する序詞として、次の『まぐはし子ろ(麗妙な娘の意)』を引き起こしている。『笥』は食器のことで、家事を見ることを『笥を持つ』という。つまり、お嫁さんになるの意である。この歌の背後には、このような美しい娘を世話女房としてしまうのを惜しむ気持ちすら窺うことができる。」
子どもの頃から「どんぐりころころどんぶりこ・・・」と頭の小さな引き出しを開けることはできし、道端に落ちているのを見て「どんぐり」と認識しているが、何故「どんぐり」といわれるのかというと答えることができない。
検索してみる。
「どんぐりは、ブナ科のカシ、クヌギ、ナラ、カシワなど、ナラ属の果実の総称である。
語源としては複数あり、
・固(まる)い栗から、団栗(どんぐり)と呼ばれるようになった。
・コマ(独楽)の古語である「ツムグリ」が語源という説。
・朝鮮半島で丸いものを意味する「ドングル」が語源という説。
などがあげられる。・・・」(レファレンス協同データベースHP)
徳利の語源は、トックあるいはトックウルといわれ甕のような瓦器をさすという。どんぐりの形は徳利に似てはしないだろうか。ドングルとトックウル・・・・・
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「植物で見る万葉の世界」 (國學院大學「万葉の花の会」発行)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」
★「レファレンス協同データベースHP」