万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう(その2618)―書籍掲載歌を中軸に(Ⅱ)―

●歌は、「あしひきの山川の瀬の鳴るなへに弓月が岳にい雲立ちわたる(柿本人麻呂歌集 7-1088)」である。

 

 「(柿本人麻呂歌集 巻七‐一〇八八)(歌は省略) 弓月が岳は、いまの巻向(まきむく)山の最高峰(五六七メートル)といわれる。・・・もっとも弓月が岳については、いろいろな説があって・・・わたくしは、山川(山中の川)の瀬に沿うて車谷から箸中の口もとまでふりかえりふりかえり辿ってみたところ車谷から西方、川の屈曲のぐあいで二、三か所みごとに見える所がある。・・・してみると、川瀬の高鳴るとともに、ふと見あげれば、この弓月が岳に雲の立ち渡る山河生動の瞬間は、いまも現前するわけで、大自然の変動を前にした作者の、ダイナミックな気韻の生動を、現実につかむことができる。」(「万葉の旅 上 大和」 犬養 孝 著 平凡社ライブラリーより)

 

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 犬養 孝氏が「万葉の人びと」(新潮文庫)のプロローグに、「それぞれの歌は、それぞれの時代に、それぞれの場所で生まれたものですから、歌を本当に理解するためには、その歌の生まれた時代や風土にできる限り戻してみなければなりません。そうして、初めて博物館の標本のような歌が生き生きと踊り出して来るんです。」と書いておられるだけに、重みが半端ではない。小生は、歌碑を車で追っかけ、歌の背景等理解したつもりになっているが、恥ずかしい思いである。

 

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一〇八七および一〇八八歌をみてみよう。

 

■■巻七 一〇七八・一〇八八歌■■

題詞は、「詠雲」<雲を詠む>である。

 

■巻七 一〇八七歌■

◆痛足河 ゝ浪立奴 巻目之 由槻我高仁 雲居立有良志

        (柿本人麻呂歌集 巻七 一〇八七)

 

≪書き下し≫穴師川(あなしがは)川波立ちぬ巻向(まきむく)の弓月が岳(ゆつきがたけ)に雲居(くもゐ)立てるらし

 

(訳)穴師の川に、今しも川波が立っている。巻向の弓月が岳に雲が湧き起っているらしい。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)穴師川:桜井市穴師を流れる巻向川。(伊藤脚注)

(注)弓月が岳:三輪山東北の巻向山の最高峰。(伊藤脚注)

(注)雲居立てる:「雲居」は雲。「立つ」は勢いよく立ち昇る意。(伊藤脚注)

 

 

 

■巻七 一〇八八歌■

◆足引之 山河之瀬之 響苗尓 弓月高 雲立渡

        (柿本人麻呂歌集 巻七 一〇八八)

 

≪書き下し≫あしひきの山川(やまがは)の瀬の鳴るなへに弓月(ゆつき)が岳(たけ)にい雲立ちわたる

 

(訳)山川(やまがわ)の瀬音(せおと)が高鳴るとともに、弓月が岳に雲が立ちわたる。(同上)

(注)鳴るなへに:鳴り響くや否や。ナへは二つの事が併行して行われることを示す。(伊藤脚注)

(注の注)なへ 接続助詞 《接続》活用語の連体形に付く。:〔事柄の並行した存在・進行〕…するとともに。…するにつれて。…するちょうどそのとき。 ※上代語。中古にも和歌に用例があるが、上代語の名残である。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

左注は、「右二首柿本朝臣人麻呂歌集出」<右の二首は、柿本朝臣人麻呂が歌集に出づ>である。

 

 

 

 一〇八七歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その69改)」で、一〇八八歌については、同「同(その1186)」で歌碑とともに紹介している。

 

 一〇八七歌

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 

奈良県桜井市箸中車谷 県道50号線沿い万葉歌碑(柿本人麻呂歌集 7-1087) 20190422撮影



 

 

 

 

一〇八八歌

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

 

 

 

奈良県天理市萱生町万葉歌碑(柿本人麻呂歌集 7-1088) 20210706撮影



 

 

 

 

 

桜井市 記・紀 万葉歌碑(第六版)」 (一社 桜井市観光協会)の巻七‐一〇八七(万葉歌碑番号 七)には、次のような内容が記されている。

桜井市 記・紀 万葉歌碑(第六版)」 (一社 桜井市観光協会)より引用させていただきました。



 

 

 

 

桜井市 記・紀 万葉歌碑(第六版)」 (一社 桜井市観光協会)の巻七‐一〇八八(万葉歌碑番号 五)には、次のような内容が記されている。

桜井市 記・紀 万葉歌碑(第六版)」 (一社 桜井市観光協会)より引用させていただきました。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉の旅 上 大和」 犬養 孝 著 (平凡社ライブラリー

★「万葉の人びと」 犬養 孝 著 (新潮文庫

★「桜井市 記・紀 万葉歌碑(第六版)」 (一社 桜井市観光協会

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」