万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その13改)―西ノ京「がんこ一徹長屋」―万葉集 巻十六 三八四〇

●歌は、「寺々の女餓鬼申さく大神の男餓鬼賜りてその子産まはむ」である。

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がんこ一徹長屋 万葉歌碑(池田朝臣

●歌碑は、西ノ京「がんこ一徹長屋」にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆寺ゝ之 女餓鬼申久 大神之 男餓鬼被給而 其子将播

                 (池田朝臣 巻十六 三八四〇)

 

≪書き下し≫寺々(てらでら)の女餓鬼(めがき)申(まを)さく大神(おほみわ)の男餓鬼(をがき)賜(たば)りてその子産(う)ませはむ

 

(訳)寺々の女餓鬼(めがき)どもが口々に申しとる。大神(おおみわ)の男餓鬼(おがき)をお下げ渡しいただき、そいつの子を産み散らしたとな。(「万葉集 三」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より))

(注)まをさく【申さく・白さく】:「まうさく」に同じ。 ※派生語。 ⇒参考「まうさく」の古い形。中古以降「まうさく」に変化した。 ⇒ なりたち動詞「まをす」の未然形+接尾語「く」(学研)

(注の注)まうさく【申さく】:申すことには。▽「言はく」の謙譲語。(学研)

(注)がき【餓鬼】① 《〈梵〉pretaの訳。薜茘多(へいれいた)と音写》生前の悪行のために餓鬼道に落ち、いつも飢えと渇きに苦しむ亡者。② 「餓鬼道」の略。③ 《食物をがつがつ食うところから》子供を卑しんでいう語。「手に負えない餓鬼だ」(コトバンク 小学館デジタル大辞泉

(注)おほかみ【大神】名詞:大御神(おおみかみ)。神様。▽「神」の尊敬語。 ※「おほ」は接頭語。(学研)

(注)たばる【賜る・給ばる】他動詞:いただく。▽「受く」「もらふ」の謙譲語。 ※謙譲の動詞「たまはる」の変化した語。上代語。(学研)

 

  この歌の題詞は、「池田朝臣嗤大神朝臣奥守歌一首 池田朝臣名忘失也」<池田朝臣(いけだのあそみ)、大神朝臣奥守(おほみわのあそみおきもり)を嗤(わら)ふ歌一首 池田朝臣が名は、忘失せり>である。 

 

 池田朝臣が大神朝臣奥守(おほみわのあそみおきもり)をからかった歌である。池田朝臣の名を忘れてしまったと記載されていることが当時の変万葉集編纂の大変さを物語っているように思える。また忘れたことをきちんと記述していることに驚きを覚える。

 寺と大神、女餓鬼と男餓鬼、大神(おほかみ)と大神(おおみわ)の対比も面白い。

 およそ万葉集のイメージからかけ離れた歌である。逆に万葉集万葉集たる所以か。

 

 この歌の次に収録されている歌の題詞は、「大神朝臣奥守報嗤歌一首」<大神朝臣奥守が報(こた)へて嗤ふ歌一首>である。

 

◆佛造 真朱不足者 水渟 池田乃阿曽我 鼻上乎穿礼

                (大神朝臣奥守 巻十六 三八四一)

 

≪書き下し≫仏(ほとけ)造(つく)るま朱(そほ)足らずば水溜(た)まる池田(いけだ)の朝臣(あそ)が鼻の上(うへ)を掘れ

 

(訳)仏様を作るま朱(そほ)が足りなくば、水の溜まる池、そうその池田のおやじの鼻の上を掘るがよい。(同上)

(注)まそほ【真赭・真朱】名詞:①(顔料や水銀などの原料の)赤い土。②赤い色。特に、すすきの穂の赤みを帯びた色にいう。「ますほ」とも。 ※「ま」は接頭語。①は上代語。(学研)

(注)みずたまる〔みづ‐〕【水溜まる】[枕]:水がたまる池の意で、「池」にかかる。転じて人名の「池田」にもかかる。(goo辞書)

 

 先の池田朝臣のからかいに対し、大神朝臣奥守が歌を返したのである。池田朝臣は赤鼻だったのだろう。

 内容的には、結構辛辣であるが、歌を介しての戯言であり、その場は笑いの渦に巻き込まれていたように感じられる。

 

 奈良県観光公式サイト「なら旅ネット」によると、「がんこ一徹長屋 墨の資料館といい、伝統工芸の技術を磨く6人の仕事風景を見ることができる。各工房には作品が展示され購入することもできる。隣接して墨の資料館があり、共通券で見学できる」とある。

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がんこ一徹長屋入り口

 最寄りの駅は、近鉄橿原線西ノ京駅である。唐招提寺薬師寺がすぐ近くにあり、観光シーズンはごった返す。車で行ったが、細い道であり、一方通行があり、近くまで行き着くが、遠回りをせねばならない羽目に、やっとの思いで到着。

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)(参考文献)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「goo辞書」

★「コトバンク 小学館デジタル大辞泉

 

★「なら旅ネット」(奈良県観光公式サイト)

★「万葉ゆかりの地を訪ねて~万葉歌碑めぐり~」(奈良市HP)

 

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