万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1475,1476,1477)―愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P13、P14、P15)―万葉集 巻六 九七一、巻六 一〇四六、巻七 一〇九二

―その1475-

●歌は、「白雲の竜田の山の露霜に色づく時にうち越えて・・・」である。

愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P13)万葉歌碑<プレート>(高橋虫麻呂

●歌碑(プレート)は、愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P13)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆白雲乃 龍田山乃 露霜尓 色附時丹 打超而 客行公者 五百隔山 伊去割見 賊守筑紫尓至 山乃曽伎 野之衣寸見世常 伴部乎 班遣之 山彦乃 将應極 谷潜乃 狭渡極 國方乎 見之賜而 冬木成 春去行者 飛鳥乃 早御来 龍田道之 岳邊乃路尓 丹管土乃 将薫時能 櫻花 将開時尓 山多頭能 迎参出六 公之来益者

      (高橋虫麻呂 巻六 九七一)

 

≪書き下し≫白雲の 龍田(たつた)の山の 露霜(つゆしも)に 色(いろ)づく時に うち越えて 旅行く君は 五百重(いほへ)山 い行いきさくみ 敵(あた)まもる 筑紫(つくし)に至り 山のそき 野のそき見よと 伴(とも)の部(へ)を 班(あか)ち遣(つか)はし 山彦(やまびこ)の 答(こた)へむ極(きは)み たにぐくの さ渡る極み 国形(くにかた)を 見(め)したまひて 冬こもり 春さりゆかば 飛ぶ鳥の 早く来まさね 龍田道(たつたぢ)の 岡辺(をかへ)の道に 丹(に)つつじの にほはむ時の 桜花(さくらばな) 咲きなむ時に 山たづの 迎へ参(ま)ゐ出(で)む 君が来まさば

 

(訳)白雲の立つという龍田の山が、冷たい霧で赤く色づく時に、この山を越えて遠い旅にお出かけになる我が君は、幾重にも重なる山々を踏み分けて進み、敵を見張る筑紫に至り着き、山の果て野の果てまでもくまなく検分せよと、部下どもをあちこちに遣わし、山彦のこだまする限り、ひきがえるの這い廻る限り、国のありさまを御覧になって、冬木が芽吹く春になったら、空飛ぶ鳥のように早く帰ってきて下さい。ここ龍田道の岡辺の道に、赤いつつじが咲き映える時、桜の花が咲きにおうその時に、私はお迎えに参りましょう。我が君が帰っていらっしゃったならば。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)しらくもの【白雲の】分類枕詞:白雲が立ったり、山にかかったり、消えたりするようすから「立つ」「絶ゆ」「かかる」にかかる。また、「立つ」と同音を含む地名「竜田」にかかる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)つゆしも【露霜】名詞:露と霜。また、露が凍って霜のようになったもの。(学研)

(注)五百重山(読み)いおえやま:〘名〙 いくえにも重なりあっている山(コトバンク精選版 日本国語大辞典

(注)さくむ 他動詞:踏みさいて砕く。(学研)

(注)まもる【守る】他動詞:①目を放さず見続ける。見つめる。見守る。②見張る。警戒する。気をつける。守る。(学研)

(注)そき:そく(退く)の名詞形<そく【退く】自動詞:離れる。遠ざかる。退く。逃れる(学研)➡山のそき:山の果て

(注)あかつ【頒つ・班つ】他動詞:分ける。分配する。分散させる。(学研)

(注)たにぐく【谷蟇】名詞:ひきがえる。 ※「くく」は蛙(かえる)の古名。(学研)

(注)きはみ【極み】名詞:(時間や空間の)極まるところ。極限。果て。(学研)

(注)ふゆごもり【冬籠り】分類枕詞:「春」「張る」にかかる。かかる理由は未詳。(学研)

(注)とぶとりの【飛ぶ鳥の】分類枕詞:①地名の「あすか(明日香)」にかかる。②飛ぶ鳥が速いことから、「早く」にかかる。(学研)

(注)につつじ【丹躑躅】:赤い花の咲くツツジ。特に、ヤマツツジのこと。(weblio辞書 デジタル大辞泉

(注の注)に【丹】名詞:赤土。また、赤色の顔料。赤い色。(学研)

(注)やまたづの【山たづの】分類枕詞;「やまたづ」は、にわとこの古名。にわとこの枝や葉が向き合っているところから「むかふ」にかかる。(学研)

 

 題詞は、「四年壬申藤原宇合卿遣西海道節度使之時高橋連蟲麻呂作歌一首并短歌」<四年壬申(みづのえさる)に、藤原宇合卿(ふぢはらのうまかひのまへつきみ)、西海道(さいかいどう)の節度使(せつどし)に遣(つか)はさゆる時に、高橋連蟲麻呂(たかはしのむらじむしまろ)の作る歌一首并(あは)せて短歌>である。

 

藤原宇合の庇護を受けた高橋虫麻呂がが宇合の事を詠った歌が六首収録されている。九七一歌を含めこれらの歌は、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1365)」で紹介している。

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tom101010.hatenablog.com

 

 高橋虫麻呂の人となりについては、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1137)」で紹介している。

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tom101010.hatenablog.com

 

 歌碑(プレート)には、「もちつつじ」と書かれている。原文は「丹管土」である。

(注)モチツツジ:・・・新芽や花の蕚(がく)などが「とりもち」のように粘るため、このような名前で呼ばれます。春葉と夏葉があり、夏葉は小さくて冬を越すことから、半常緑樹と区分されることもあります。コバノミツバツツジより遅れて、5月頃に薄紫色の花を咲かせます。また、晩秋に暖かい日が続くと、咲いていることもあります。(「六甲山系電子植生図鑑」国土交通省近畿地方整備局六甲砂防事務所HP)

 モチツツジ 「六甲山系電子植生図鑑」国土交通省近畿地方整備局六甲砂防事務所HPより引用させていただきました。

 「丹つつじ」の「丹」を踏まえると、こちらの方に軍配が上がるのではと思う。

葛城山のつつじ(自生だそうである) 「葛城山ロープウエイHP」より引用させていただきました。

 

―その1476―

 

●歌は、「岩つなのまたをちかえりあをによし奈良の都をまたも見むかも」である。

愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P14)万葉歌碑<プレート>(作者未詳)

●歌碑(プレート)は、愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P14)にある。

 

●歌をみていこう。

 

一〇四四から一〇四六歌の歌群の題詞は、「傷惜寧樂京荒墟作歌三首  作者不審」<寧楽(なら)の京の荒墟(くわうきよ)を傷惜(いた)みて作る歌三首 作者審らかにあらず>である。

(注)寧楽の京の荒墟:天平十二年(740年)から同十七年奈良遷都まで古京と化したのである。聖武天皇の「彷徨の五年」と呼ばれる時期である。

 

◆石綱乃 又變若反 青丹吉 奈良乃都乎 又将見鴨

      (作者未詳 巻六 一〇四六)

 

≪書き下し≫岩つなのまたをちかへりあをによし奈良の都をまたも見むかも

 

(訳)這(は)い廻(めぐ)る岩つながもとへ戻るようにまた若返って、栄えに栄えた都、あの奈良の都を、再びこの目で見ることができるであろうか。(同上)

(注)岩綱【イワツナ】:定家葛の古名、岩に這う蔦や葛の総称(weblio辞書 植物名辞典)

(注の注)「石綱(イワツナ)」は「石葛(イワツタ)」と同根の語で岩に這うツタのことだが、延びてもまた元に這い戻ることから「かへり」にかかる枕詞となる、(「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著)

(注)をちかへる【復ち返る】自動詞:①若返る。②元に戻る。繰り返す。(学研)

 

 この歌群三首については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1097)」で紹介している。

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 田辺福麻呂の「寧楽の故郷を悲しびて作る歌一首 幷せて短歌」についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その83改)」で紹介している。(初期のブログであるのでタイトル写真には朝食の写真が掲載されていますが、「改」では、朝食の写真ならびに関連記事を削除し、一部改訂させていただいております。ご容赦下さい。)

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tom101010.hatenablog.com

 

上記の(注)に、「岩綱【イワツナ】:定家葛の古名、岩に這う蔦や葛の総称(weblio辞書 植物名辞典)」とある。テイカカズラを調べてみよう。

テイカカズラの名は、成就しなかった恋の執心で蔦葛となり、恋人である式子内親王の墓に絡みついたという伝説を脚色した謡曲『定家』に由来します。

テイカカズラ属は、日本を含むアジア東南部と北アメリカに分布する常緑のつる性木本植物で、テイカカズラは、本州から九州の林などに自生します。

花は、キョウチクトウを小さくしたような白色の花で、甘く香り、咲き進むとクリーム色に変化します。葉は濃い緑で秋には美しく紅葉します。」(みんなの趣味の園芸 NHK出版HP)

 テイカカズラ 「みんなの趣味の園芸 NHK出版HP」より引用させていただきました。

 

―その1477―

●歌は、「鳴る神の音のみ聞きし巻向の桧原の山を今日見つるかも」である。

 

愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P15)万葉歌碑<プレート>(柿本人麻呂歌集)

●歌碑(プレート)は、愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P15)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆動神之 音耳聞 巻向之 檜原山乎 今日見鶴鴨

      (柿本人麻呂歌集 巻七 一〇九二)

 

≪書き下し≫鳴る神の音のみ聞きし巻向の檜原(ひはら)の山を今日(けふ)見つるかも

 

(訳)噂にだけ聞いていた纏向の檜原の山、その山を、今日この目ではっきり見た。(同上)

(注)なるかみ【鳴る神】名詞:かみなり。雷鳴。[季語] 夏。 ⇒参考「かみなり」は「神鳴り」、「いかづち」は「厳(いか)つ霊(ち)」から出た語で、古代人が雷を、神威の現れと考えていたことによる。(学研)

(注)ひ【檜】:ヒノキの古名。(weblio辞書 デジタル大辞泉

(注の注)ひのき【檜】:わが国の本州、福島県以西から四国・九州に分布しています。高さは50メートル、直径2.5メートルにもなります。枝は水平に広がり、鱗片状の葉が対生します。4月ごろ、赤褐色の花(雄花)をつけます。木曽の五木の中では最も産出量が多く、建築材として利用されています。名前は、その昔、この木を擦り合わせて火をおこした「火の木」という意味から。(weblio辞書 植物図鑑)

 

「ひのき」 「weblio辞書 植物図鑑」より引用させていただきました。

 万葉集には、「檜原」が詠まれたのは六首、「檜乃嬬手」「檜山」「檜橋」の形で三首が収録されている。これらについてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1124)」で紹介している。

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tom101010.hatenablog.com

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク精選版 日本国語大辞典

★「weblio辞書 デジタル大辞泉

★「weblio辞書 植物図鑑」

★「weblio辞書 植物名辞典」

★「みんなの趣味の園芸」 (NHK出版HP)

★「六甲山系電子植生図鑑」 (国土交通省近畿地方整備局六甲砂防事務所HP)

★「葛城山ロープウエイHP」