万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1478,1479,1480)―愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P16、P17、P18)―万葉集 巻七 一二五五、巻七 一二五七、巻七 一三三〇)

―その1478-

●歌は、「月草に衣ぞ染むる君がため斑の衣摺らむと思ひて」である。

愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P16)万葉歌碑<プレート>(作者未詳)

●歌碑(プレート)は、愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P16)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆月草尓 衣曽染流 君之為 綵色衣 将摺跡念而

      (作者未詳 巻七 一二五五)

 

≪書き下し≫月草(つきくさ)に衣(ころも)ぞ染(そ)むる君がため斑(まだら)の衣(ころも)摺(す)らむと思ひて

 

(訳)露草で着物を摺染(すりぞ)めにしている。あの方のために、斑(まだら)に染めた美しい着物に仕立てようと思って。(同上)

(注)つきくさ【月草】名詞:①草の名。つゆくさの古名。この花の汁を衣に摺(す)り付けて縹(はなだ)色(=薄藍(うすあい)色)に染めるが、その染め色のさめやすいことから、歌では人の心の移ろいやすいたとえとすることが多い。[季語] 秋。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注の注)ツユクサツユクサ一年草で、高さが10~20 cmくらいになり、直立することはなく、茎は地面を這って分枝しながら増殖します。葉は2列で互生し、卵状皮針(ひしん)形長さ5-7 cmほどになります。広心形の苞(ほう)の中から、花弁を突き出すようにつけます。大きく重なった2枚の青紫色の花が目立ちますが、実はよく見ると小さな白色の花がもう1枚下部にあるのに気づきます。その形や色から「帽子花(ぼうしばな)」、「青花(あおばな)」ともよばれ、花の汁を衣にこすりつけて染めていたことから古くは「着草(つきくさ)」とも呼ばれていました。この花は、早朝に開花して午後には萎(しぼ)んでしまう短命花です。(公益社団法人 日本薬学会HP「生薬の花」より)

 「ツユクサの花」 (公益社団法人 日本薬学会HP「生薬の花」より引用させていただきました。)

 日本薬学会HPに「早朝に開花して午後には萎(しぼ)んでしまう短命花です。」と書かれていたが、その状態を踏まえた歌をみてみよう。

 

◆朝開 夕者消流 鴨頭草乃 可消戀毛 吾者為鴨

     (作者未詳 巻十 二二九一)

 

≪書き下し≫朝(あした)咲き夕(ゆうへ)は消(け)ぬる月草(つきくさ)の消(け)ぬべき恋も我(あ)れはするかも

 

(訳)朝咲いても夕方にはしぼんでしまう露草のように、身も消え果ててしまいそうな恋、そんなせつない恋を私はしている。(同上)

(注)上三句は序。「消ぬ」を起こす。

 

 二二九一歌をはじめとする「つきくさ」を詠んだ歌については、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1207)」で紹介している。

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―その1479―

●歌は、「道の辺の草深百合の花笑みに笑みしがからに妻と言ふべしや」である。

愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P17)万葉歌碑<プレート>(作者未詳)

●歌碑(プレート)は、愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P17)にある。

 

●歌をみていこう。

 

 

◆道邊之 草深由利乃 花咲尓 咲之柄二 妻常可云也

      (作者未詳 巻七 一二五七)

 

≪書き下し≫道の辺(へ)の草深百合(くさふかゆり)の花(はな)笑(ゑ)みに笑みしがからに妻と言ふべしや

 

(訳)道端の草むらに咲く百合、その蕾(つぼみ)がほころびるように、私がちらっとほほ笑んだからといって、それだけでもうあなたの妻と決まったようにおっしゃってよいものでしょうか。(同上)

(注)くさぶかゆり【草深百合】:草深い所に生えている百合。 (weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

(注)ゑむ【笑む】自動詞:①ほほえむ。にっこりとする。微笑する。②(花が)咲く。(学研)

(注)上三句「道邊之 草深由利乃 花咲尓」は「笑みし」の譬喩

(注)からに 接続助詞《接続》活用語の連体形に付く。:①〔原因・理由〕…ために。ばかりに。②〔即時〕…と同時に。…とすぐに。③〔逆接の仮定条件〕…だからといって。たとえ…だとしても。…たところで。▽多く「…むからに」の形で。参考➡格助詞「から」に格助詞「に」が付いて一語化したもの。上代には「のからに」「がからに」の形が見られるが、これらは名詞「故(から)」+格助詞「に」と考える。

 

 この歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その715)」で紹介している。

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tom101010.hatenablog.com

 

 「ゆり」を詠んだ歌は十一首収録されている。これについてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1072)」で紹介している。

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tom101010.hatenablog.com

 

 

 

―その1480―

●歌は、「南淵の細川山に立つ檀弓束巻くまで人に知らえじ」である。

愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P18)万葉歌碑<プレート>(作者未詳)



●歌碑(プレート)は、愛知県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P18)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆南淵之 細川山 立檀 弓束纒及 人二不所知

     (作者未詳 巻七 一三三〇)

 

≪書き下し≫南淵(みなぶち)の細川山(ほそかはやま)に立つ檀(まゆみ)弓束(ゆづか)巻くまで人に知らえじ

 

(訳)南淵の細川山に立っている檀(まゆみ)の木よ、お前を弓に仕上げて弓束を巻くまで、人に知られたくないものだ。(同上)

(注)細川山:奈良県明日香村稲渕の細川に臨む山。

(注)まゆみ:目をつけた女の譬え

(注)ゆつか【弓柄・弓束】名詞:矢を射るとき、左手で握る弓の中ほどより少し下の部分。また、そこに巻く皮や布など。「ゆづか」とも。(学研)

 

 この歌ならびに奈良県明日香村の「南淵の細川山」近辺を詠った歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1018)」で紹介している。

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tom101010.hatenablog.com

 

マユミについて、「みんなの趣味の園芸」(NHK出版HP)に。「マユミが属するニシキギ科のニシキギの名は、錦のような紅葉の美しさから名づけられましたが、その仲間のマユミも秋になると、茶色がかったオレンジ色に紅葉する、とても美しい落葉低木です。それにもまして美しいのが、朱色がかった赤色の四角い果実で、熟すと中から、紅オレンジ色の仮種皮(かしゅひ)に覆われたタネが現れ、落葉後も残ります。」と書かれている。

 

「マユミ」 「みんなの趣味の園芸」(NHK出版HP)より引用させていただきました。

 

古来、弓の材料としては、マユミの他にアズサ、ハジ、ツキなどのしなやかな弾力性のある木材が使われたのである。

「檀」は他の木材よりも優れていたようで、「檀」で作られた弓は、讃美の接頭語「ま」をつけて真弓(まゆみ)と呼ばれるようになり、材料である「檀」も「まゆみ」と呼ばれるようになったようである。

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版」

★「みんなの趣味の園芸」(NHK出版HP)

★「公益社団法人 日本薬学会HP」