万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1490,1491,1492)ー静岡県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P28、P29、P30)―万葉集 巻十 一九五三.巻十 二一〇四、巻十 二一八九

―その1490―

●歌は、「五月山卯の花月夜ほととぎす聞けども飽かずまた鳴かぬかも」である。

静岡県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P28)万葉歌碑<プレート>(作者未詳)

●歌碑(プレート)は、静岡県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P28)にある。

 

●歌をみていこう。

 

五月山 宇能花月夜 霍公鳥 雖聞不飽 又鳴鴨

     (作者未詳 巻十 一九五三)

 

≪書き下し≫五月山(さつきやま)卯(う)の花月夜(づくよ)ほととぎす聞けども飽かずまた鳴くぬかも

 

(訳)五月の山に卯の花が咲いている月の美しい夜、こんな夜の時鳥は、いくら聞いても聞き飽きることがない。もう一度鳴いてくれないものか。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)五月山卯の花月夜:五月の山に月が照らして卯の花をほの白く浮き立たせている今宵。(伊藤脚注)

 

卯の花」と聞くと唱歌「夏は来ぬ」のメロディーが頭に浮かぶ。1番は覚えているが、2番以降は浮かんでこない。気になるので、改めて検索してみた。5番まであったのだ。

1.卯の花の 匂う垣根に

  時鳥(ほととぎす) 早も来鳴(きなき)きて

  忍音(しのびね)もらす 夏は来ぬ

2.さみだれの そそぐ山田に

  早乙女が 裳裾(もすそ)ぬらして

  玉苗(たまなえ)植うる 夏は来ぬ

3.橘の 薫る軒端(のきば)の

  窓近く 蛍飛びかい

  おこたり諌(いさ)むる 夏は来ぬ

4.楝(おうち)ちる 川べの宿の

  門(かど)遠く 水鶏(くいな)声して

  夕月すずしき 夏は来ぬ

5.五月(さつき)やみ 蛍飛びかい

  水鶏(くいな)鳴き 卯の花咲きて

  早苗植えわたす 夏は来ぬ

 

 何と、万葉の世界ではないか。

 

卯の花」については、YomeishuHP「生薬ものしり事典81」に次の様に書かれている。

「旧暦の4月の名称は、『卯の花(ウノハナ)』が咲く季節なので『卯月(ウヅキ)』と呼ばれるようになったという説があります。5月初旬が旧暦の4月朔日(旧暦で月の第一日)に当たるので、その日から6月1日頃までが卯月となります。昔は生活が自然と密接だったので、こうした文学的な呼び名が生まれたのかもしれません。枝先いっぱいに群がるように咲く純白のウノハナは、新緑の中でひときわ目立ちます。辺りに漂う花の匂いも、季節の風物詩です。ちなみに、豆腐のしぼりかす(おから)をウノハナと呼ぶのは、この白い小花の咲いている姿と似ているからです。

ウノハナの植物名は『ウツギ』ですが、通常はウノハナと呼ぶことが多いといえます。ウツギという名の由来は、『空木と言う意味で、幹の中が中空であるところからきたもの。ウノハナはウツギ花の略とされたものであるが、卯月に咲くという説もある。漢名は溲疏(そうじょ)と言うが正しい使い方ではない。』と牧野富太郎博士は述べています。

万葉仮名には『宇能花』『宇乃花』『宇能波奈』などが使われています。10世紀に編まれた『和名類聚抄』には『宇豆木(ウツギ)』とあるので、平安時代にはウツギの名があったことがわかりますが、和歌などではほとんどウノハナの名で詠まれています。7~8世紀に編まれた『万葉集』にも、ウツギの名はありませんが、ウノハナは24首も詠まれています。夏を告げる時鳥と共に詠まれている和歌が多く、ウノハナの背景によく合っています。」

 「ウノハナ」 YomeishuHP「生薬ものしり事典81」より引用させていただきました。

 

 この歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その528)」で紹介している。

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tom101010.hatenablog.com

 

 

―その1491―

●歌は、「朝顔は朝露負ひて咲くといへど夕影にこそ咲きまさりけれ」である。

静岡県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P29)万葉歌碑<プレート>(作者未詳)

●歌碑(プレート)は、静岡県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P29)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆朝杲 朝露負 咲雖云 暮陰社 咲益家礼

       (作者未詳 巻十 二一〇四)

 

≪書き下し≫朝顔(あさがほ)は朝露(あさつゆ)負(お)ひて咲くといへど夕影(ゆふかげ)にこそ咲きまさりけれ

 

(訳)朝顔は朝露を浴びて咲くというけれど、夕方のかすかな光の中でこそひときわ咲きにおうものであった。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)ゆふかげ【夕影】名詞:①夕暮れどきの光。夕日の光。[反対語] 朝影(あさかげ)。

②夕暮れどきの光を受けた姿・形。(学研)

 

 現在のアサガオは、この当時渡来していないので、この「朝顔(あさがほ)」については、桔梗(ききょう)説・木槿(むくげ)説・昼顔説などがあるが、木槿も昼顔も夕方には花がしぼむので、「夕影(ゆふかげ)にこそ咲きまさりけれ」というのは桔梗であると考えるのが妥当であろうといわれている

 

 この歌については、直近では、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1437)」で紹介している。

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tom101010.hatenablog.com

 

 

―その1492―

●歌は、「露霜の寒き夕の秋風にもみちにけらし妻梨の木は」である。

静岡県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P30)万葉歌碑<プレート>(作者未詳)

●歌碑(プレート)は、静岡県浜松市北区 三ヶ日町乎那の峯(P30)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆露霜乃 寒夕之 秋風丹 黄葉尓来之 妻梨之木者

       (作者未詳 巻十 二一八九)

 

≪書き下し≫露霜(つゆしも)の寒き夕(ゆふへ)の秋風にもみちにけらし妻梨の木は

 

(訳)置く露のひとしお寒々とした夕(ゆうべ)、この夕方の秋風によって色づいたのであるらしい。妻なしという梨の木は。(同上)

 

二一八九歌については、「梨(なし)棗(なつめ)黍(きみ)に粟(あは)つぎ延(は)ふ葛(くず)の後(のち)も逢(あ)はむと葵(あふひ)花咲く (作者未詳 巻十六 三八三四)」の歌に詠まれた6種類の植物(梨・棗・黍・粟・葛・葵)が万葉集において何首が詠われているかについてとともに、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1138)」で紹介している。

 ➡ 

tom101010.hatenablog.com

 

「ナシ」はpixabay、「ナツメ、キビ、アワ、クズ」はweblio辞書、「フユアオイ」は、熊本大学薬学部 薬草園 植物データベースより引用させていただきました。

※20230629静岡県浜松市に訂正

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「植物で見る万葉の世界」 國學院大學 萬葉の花の会 著 (同会 事務局)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 デジタル大辞泉、植物図鑑他」

★「pixabay」

★「植物データベース」 (熊本大学薬学部 薬草園)

★「生薬ものしり事典81」 (YomeishuHP)