万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2493)―

●歌は、「み狩する雁羽の小野の櫟柴のなれはまさらず恋こそまされ」である。

茨城県石岡市小幡 ライオンズ広場万葉の森万葉歌碑(プレート) 20230927撮影

●歌碑(プレート)は、茨城県石岡市小幡 ライオンズ広場万葉の森にある。

 

●歌をみていこう。

◆御獦為 鴈羽之小野之 櫟柴之 奈礼波不益 戀社益

     (作者未詳 巻十一 三〇四八)

 

≪書き下し≫み狩(かり)する雁羽(かりは)の小野の櫟柴(ならしば)のなれはまさらず恋こそまされ

 

(訳)み狩りにちなみの雁羽の小野のならの雑木ではありませんが、あなたと馴れ親しむことはいっこうになさらずに、お逢いできぬ苦しみが増すばかりですが。(「万葉集 三」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)み狩りする:「雁羽(かりは:所在未詳)」の枕詞。同音。(伊藤脚注)

(注)上三句は序。「なれ(馴れ)」を起す。(伊藤脚注)

(注の注)みかり【御狩】〘名〙 (「み」は接頭語):① 天皇や皇子などの狩することを敬っていう語。② 狩の美称。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典)ここでは②の意

(注)ならしば【楢柴】:楢の木の枝。(weblio辞書 デジタル大辞泉

(注)なれ 【慣れ】:動詞「なる」の未然形・連用形。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注の注)なれ 【汝】代名詞:おまえ。▽対称の人称代名詞。親しい者、目下の者、動物などに用いる。(学研)

 

 この歌については、「み狩り」を詠んだ歌とともに、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1064)」で紹介している

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 「の・の・の」「かり・かり」「なら・なれ」「まさらず・まされ」のリズム感は「信州信濃の新そばよりもあたしゃあなたの傍がよい」の都都逸を彷彿とさせる。

 三〇四八歌は、「なれはまさらず恋こそまされ」と朗々と歌うと格調高い和歌となるが、全体をリズミカルに歌えば、歌垣で歌われたと考えてもいい雰囲気を醸し出す。

 

 

ナラ(楢)は、「北半球の温帯から熱帯の高地に分布するブナ科カシ属 Quercusの高木のうち,コナラ (小楢),ミズナラ (水楢),ナラガシワなど日本に産する落葉性の種類の総称。同属の植物でも葉質の硬い,常緑性の種類は通常カシと呼んで区別する。しかし分類学上のナラとカシの差は堅果,いわゆる「どんぐり」の基部につく殻斗 (かくと) の包鱗のあり方で,カシ類が数層の横輪状になるのに対し,ナラ類は包鱗が癒着せず,敷瓦状に並ぶ点が異なる。その意味では西日本の海岸に生じるウバメガシ Q. phillyraeoidesは常緑ではあるがナラ類に入れられる。普通単にナラと呼ぶときはコナラをさすことが多いが,用材としてはミズナラが重視される。この仲間の葉は互生し縁に鋸歯がある。雌雄同株。4~5月頃,新葉下部に紐状の雄花穂,上部の葉のつけ根に短い直立した雌花穂をつける。どんぐりと呼ばれる堅果は楕円または球形で,基部を包む椀形の総包は多くの鱗片が重なる。ナラ材は重硬,緻密で,家具,船舶,建築などのほか洋酒の樽材,シイタケの原木,薪炭材となる。また,樹皮や葉を染色に用いることもある。」(コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)

 

 

 万葉集では、「楢」を詠んだ歌は三〇四八歌一首だけであり、「こ楢」を詠んだのも三四二四歌一首だけである。

 

 こちらもみてみよう。

◆之母都家野 美可母乃夜麻能 許奈良能須 麻具波思兒呂波 多賀家可母多牟

       (作者未詳 巻十四 三四二四)

 

≪書き下し≫下(しも)つ毛(け)野(の)三毳(みかも)の山のこ楢(なら)のすまぐはし子ろは誰(た)か笥(け)か持たむ

 

(訳)下野の三毳の山に生(お)い立つ小楢の木、そのみずみずしい若葉のように、目にもさわやかなあの子は、いったい誰のお椀(わん)を世話することになるのかなあ。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)下野:栃木県

(注)三毳の山:佐野市東方の山。大田和山ともいう。

(注)まぐはし【目細し】形容詞:見た目に美しい。 ⇒「ま」は目の意。※上代語。(学研)

(注)す+形容詞:( 接頭 ) 形容詞などに付いて、普通の程度を超えている意を添える。 「 -早い」 「 -ばしこい」(weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)

(注)け【笥】名詞:容器。入れ物。特に、食器。(学研)

 

 左注は、「右二首下野國歌」<右の二首は下野の国の歌>とある。

 

この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1145)」で紹介している。

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■■史跡高井田横穴公園内の万葉歌(プレート)■■

 柏原市のHPに「史跡高井田横穴公園内の万葉歌(プレート)」と題する記事を見つけた。2012年4月14日付けで、次のように書かれている。

柏原市立歴史資料館に隣接して史跡高井田横穴公園がある。この公園は、横穴見学者だけでなく、より多くの人たちが公園を利用し、楽しむことができるよう、四季折々の花の植栽なども含めて整備されている。万葉集の歌を表示したプレートもその一つで、園内西エリアには花をテーマとした万葉歌のプレートが、テーマとなった花の植栽の近くに立てられている。これらの歌は、柏原市に直接関係するものではないが、歴史に触れるという点からは、史跡公園と決して無縁のもの ではない。そこで、本稿では、これらの歌を通して、少し、万葉の雰囲気に浸ってみることにしたい。」とありプレートの歌と思われる歌が、「〇」で記され(十八首)、関連する歌「・」も解説されている。 

 

 本日(3月7日)、まず柏原市立歴史資料館を見学してから、「史跡高井田横穴公園」に足を運んだ。

 駐車場は、歴史資料館にしかなく、横穴公園はここを拠点とする。

 

 公園内はアップダウンが激しく、また目指す万葉歌碑(プレート)は意外と小さく目立たない。しかも植え込みの中に埋もれていたり、また切り倒されていたのもありで結局11基しか撮影できなかったのである。

 十一首については、後日紹介させていただきます。

 

 



 

 

 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版」

★「コトバンク ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典」

★「柏原市HP」