万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その2142)―大阪府(2)北部―

大阪府北部>

豊中市緑丘 豊中不動尊万葉歌碑(巻十二 三一九三)■

豊中市緑丘 豊中不動尊万葉歌碑(作者未詳) 20201002撮影

●歌をみていこう。

 

◆玉勝間 嶋熊山之 夕晩 獨可君之 山道将越  一云 暮霧尓 長戀為乍 寐不勝可母

      (作者未詳 巻十二 三一九三)

 

≪書き下し≫玉かつま島熊山(しまくまやま)の夕暮(ゆふぐ)れにひとりか君が山道越ゆらむ  <一には「夕霧に長恋しつつ寐(いね)かてぬかも」といふ>

 

(訳)島熊山の夕暮れ時に、一人さびしく、あの方はその山道を越えておられるのであろうか。<夕霧の中で、果てない妻恋しさに、寝るに寝かねている>(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)たまかつま【玉勝間・玉籠】分類枕詞:「かつま」は、かごの意。竹かごは蓋(ふた)と身とが合うことから「逢(あ)ふ」にかかり、「逢ふ」に似た音の地名「安部(あべ)」にもかかる。また、地名「鳥熊山(とりくまやま)」にかかるが、かかる理由未詳。 ※「たま」は接頭語で美称。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典) 島熊山(しまくまやま)?

 

 豊中市HPに「島熊山は、万葉集に詠まれ、江戸時代の地誌『摂津名所図会』にも記述される歴史に名を残す山です。市内で最も多い種類の在来の植物が見られ、キツネやタヌキ、数多くの野鳥や昆虫が生息する自然豊かな里山です。・・・豊中に残されている自然豊かなみどりの保全・再生を地域で進めるため、市民・地域団体・周辺学校・NPOで構成する『島熊山緑地協議会』との協働により、竹間伐等の保全・再生活動に努めるとともに、自然環境啓発等に活用しています。」と書かれている。

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その786)」で紹介している。

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吹田市片山 片山北ふれあい公園万葉歌碑(巻十四 三三六六)■

吹田市片山 片山北ふれあい公園万葉歌碑(作者未詳) 20201002撮影

●歌をみていこう。

 

◆麻可奈思美 佐祢尓和波由久 可麻久良能 美奈能瀬河泊尓 思保美都奈武賀

        (作者未詳 巻十四 三三六六)

 

≪書き下し≫ま愛(かな)しみさ寝(ね)に我(わ)は行く鎌倉の水無瀬川(みなのせがは)に潮(しほ)満(み)つなむか

 

(訳)かわいさのあまり、共寝をしに私は出かけて行く。それにしても、鎌倉のあの水無瀬川(みなのせがわ)に、今ごろ潮が満ち満ちていはしまいか。(同上)

(注)「なむ」は「らむ」の訛り。(伊藤脚注)

(注)よそ者に対する妨害の譬えを詠ったもの。(伊藤脚注)

(注)▽みなせがは【水無瀬川】名詞:水のない川。伏流となって地下を流れ、川床に水の見えない川。和歌では、表に現れない、表に現せない心をたとえることがある。「みなしがは」とも。

▽みなせがは【水無瀬川】分類枕詞:水無瀬川の水は地下を流れるところから、「下(した)」にかかる。

水無瀬川 分類地名:歌枕(うたまくら)。今の大阪府三島郡島本町を流れ、桂(かつら)川に注ぐ川。(学研)

 

 歌枕を扱うシリーズでは疑問に思える歌碑である。第一に関東東歌である。地名も鎌倉の水無瀬川である。水無瀬という地名は、大阪府三島郡島本町水無瀬があるが、ここ吹田市片山との関係が理解できない。また「ふれあい公園」とあり子供遊具があるのに、「共寝」とくるからである。

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その792)」で紹介している。

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吹田市垂水町 垂水神社万葉歌碑(巻八 一四一八)■

吹田市垂水町 垂水神社万葉歌碑(志貴皇子) 20201002撮影

●歌をみていこう。

 

◆石激 垂見之上乃 左和良妣乃 毛要出春尓 成来鴨

        (志貴皇子 巻八 一四一八)

 

≪書き下し≫石走(いはばし)る垂水(たるみ)の上(うへ)のさわらびの萌(も)え出(い)づる春になりにけるかも

 

(訳)岩にぶつかって水しぶきをあげる滝のほとりのさわらびが、むくむくと芽を出す春になった、ああ。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)いはばしる【石走る・岩走る】分類枕詞:動詞「いはばしる」の意から「滝」「垂水(たるみ)」「近江(淡海)(あふみ)」にかかる。(学研)

(注)たるみ【垂水】名詞:滝。(学研)

 

 

 垂水神社の由緒碑にはもう一首が刻されている。こちらもみてみよう。

 

吹田市垂水町 垂水神社由緒の碑中の万葉歌(巻七 一一四二)■

吹田市垂水町 垂水神社由緒の碑中の万葉歌(志貴皇子、作者未詳) 
20201002撮影

●歌をみていこう。

 

◆命 幸久吉 石流 垂水ゝ乎 結飲都

     (作者未詳 巻七 一一四二)

 

≪書き下し≫命(いのち)をし幸(さき)くよけむと石走(いはばし)る垂水(たるみ)の水を結びて飲みつ

 

(訳)我が命がすこやかで無事であれかしと、激しく飛び散る滝の水、その水を両手ですくってぐいぐいと飲んだよ、私は。(同上)

 

 題詞は「摂津国作(つのくにさく)」である。

 

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 一四一八歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その790)」で、一一四二歌は、「同(その791)」で紹介している。

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大阪府枚方市香里ケ丘 観音山公園万葉歌碑(巻八 一五二七)■

大阪府枚方市香里ケ丘 観音山公園万葉歌碑(山上憶良) 20201019撮影

●歌をみていこう。

 

◆牽牛之 迎嬬船 己藝出良之 天漢原尓 霧之立波

                               (山上憶良 巻八 一五二七)

 

≪書き下し≫彦星(ひこぼし)の妻迎(むか)へ舟(ぶね)漕(こ)ぎ出(づ)らし天(あま)の川原(かはら)に霧(きり)の立てるは

(訳)彦星の妻を迎えに行く舟、その舟が今漕ぎ出したらしい。天の川原に霧がかかっているところから推すと。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

 

この歌は、題詞「山上臣憶良七夕歌十二首」<山上臣憶良(やまのうへのおみおくら)が七夕(たなばた)の歌十二首>のうちの一首である。

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その390)」で紹介している。

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大阪府交野市私部西 逢合橋左岸詰万葉歌碑(巻十 二〇四〇)■

大阪府交野市私部西 逢合橋左岸詰万葉歌碑(作者未詳) 20200119撮影

●歌をみていこう。

 

◆牽牛 与織女 今夜相 天漢門尓 浪立勿謹

        (作者未詳 巻十 二〇四〇)

 

≪書き下し≫彦星(ひこぼし)と織女(たなばたつめ)と今夜(こよひ)逢ふ天(あま)の川門(かはと)に波立つなゆめ

 

(訳)彦星と織姫とが今宵逢う、その天の川の渡し場には、波よ、荒々しく立たないでおくれ。決して。(同上)

(注)かはと【川門】名詞:両岸が迫って川幅が狭くなっている所。川の渡り場。(学研)

(注)ゆめ【努・勤】副詞:①〔下に禁止・命令表現を伴って〕決して。必ず。②〔下に打消の語を伴って〕まったく。少しも。(学研)

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その389)」で紹介している。

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大阪府交野市星田 星田妙見宮万葉歌碑(巻十七 三九〇〇)■

大阪府交野市星田 星田妙見宮万葉歌碑(大伴家持) 20200119撮影

●歌をみていこう。

 

◆多奈波多之 船乗須良之 麻蘇鏡 吉欲伎月夜尓 雲起和多流

          (大伴家持 巻十七 三九〇〇)

 

≪書き下し≫織女(たなばた)し舟乗(ふなの)りすらしまそ鏡清き月夜(つくよ)に雲立ちわたる

 

(訳)今しも天の川に、織姫が彦星の迎えの舟に乗って漕ぎ進んでいるらしい。清らかに月の輝くこの晴れた夜に、雲が湧き上がってぐんぐん広がってゆく。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)

 

題詞は、「十年七月七日之夜獨仰天漢聊述懐一首」<十年の七月の七日の夜に、独り天漢(ああのがは)を仰ぎて、いささかに懐(おもひ)を述ぶる一首>である。

(注)天平十年(738年)

(注)あまのがは 【天の川・天の河・〈天漢〉・〈銀漢〉】銀河系内の無数の恒星が天球の大円に沿って帯状に見えるのを川に見立てたもの。七月七日の七夕の夜、牽牛(けんぎゆう)と織女がこの川を渡って年に一度会うという。ミルキー-ウエー。 (三省堂 大辞林 第三版)

 

左注は、「右一首大伴宿祢家持作」<右の一首は、大伴宿禰家持作る>である。

 

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その386)」で紹介している。

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 交野市については、交野市HPに「大阪府奈良県の県境に位置し、東側と南側が山に囲まれる地形となっており、市域の中央部を天野川が流れています。 

豊かな実りをもたらす天野川と、印象的な交野山を有する自然豊かな地“交野が原”は、多くの人に愛され、いつしか七夕伝説をはじめとする数々の伝説と結び付けられるようになりました。」と紹介されている。

交野市のゆるキャラは「おりひめちゃん」である。

「おりひめちゃん」 交野市HPより引用させていただきました。

「古くから交野に伝わる七夕伝説の織姫をあしらった、明るくキュートな今ドキの女の子です。第二京阪道路の市町村標識デザインに採用されたことをきっかけに、市のPRキャラクターとして採用されました。さまざまなイベントなどに登場し、交野をゆるーくPRします」と書かれている。(同HP)

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「豊中市HP」

★「交野市HP」