万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その2172)―福岡県(5)太宰府市<2>―

太宰府市(2)>

■福岡県太宰府市大宰府 太宰府天満宮万葉歌碑(巻五 八三〇)■

福岡県太宰府市大宰府 太宰府天満宮万葉歌碑(佐氏子首) 20201117撮影

●歌をみていこう。

 

◆萬世尓 得之波岐布得母 烏梅能波奈 多由流己等奈久 佐吉和多留倍子  [筑前介佐氏子首]

        (佐氏子首 巻八 八三〇)

 

≪書き下し≫万代(よろづよ)に年は来経(きふ)とも梅の花絶ゆることなく咲きわたるべし  [筑前介(つくしのみちのくちのすけ)佐氏子首(さじのこおびと)]

 

(訳)万代までののちまでも春の往来(ゆきき)があろうとも、この園の梅の花は絶えることなく咲き続けるであろう。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)きふ【来経】自動詞:年月がやって来ては去って行く。時が経過する。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

 「梅花の歌」三十二首の一首である。     

 

 

 

 

太宰府市大宰府 太宰府天満宮九州国立博物館入口万葉歌碑(巻五 八二二)■

太宰府市大宰府 太宰府天満宮九州国立博物館入口万葉歌碑(大伴旅人
 20201117撮影

●歌をみていこう。

 

◆和何則能尓 宇米能波奈知流 比佐可多能 阿米欲里由吉能 那何列久流加母 [主人]           (大伴旅人 巻八 八二二)

 

≪書き下し≫我(わ)が園(その)に梅の花散るひさかたの天(あめ)より雪の流れ来(く)るかも  主人

 

(訳)この我らの園に梅の花がしきりに散る。遥かな天空から雪が流れて来るのであろうか。(伊藤 博 著 「万葉集 一」角川ソフィア文庫より)

(注)天(あめ)より雪の流れ来(く)るかも:梅花を雪に見立てている。六朝以来の漢詩に多い。(伊藤脚注)

(注)主人:宴のあるじ。大伴旅人。(伊藤脚注)

 

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感想(1件)

「梅花の歌」三十二首の一首である。

 


 八三二歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その917)」で、八二二歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その918)」で紹介している。

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■福岡県太宰府市石坂 九州国立博物館万葉歌碑(巻四 五七四)■

太宰府市石坂 九州国立博物館万葉歌碑(大伴旅人) 20201117撮影

●歌をみていこう。

 

題詞は、「大納言大伴卿和歌二首」<大納言大伴卿が和(こた)ふる歌二首>である。

 

◆此間在而 筑紫也何處 白雲乃 棚引山之 方西有良思

        (大伴旅人 巻四 五七四)

 

≪書き下し≫ここありて筑紫(つくし)やいづち白雲のたなびく山の方(かた)にしあるらし

 

(訳)ここ奈良から見て筑紫はどの方向になるだろう。白雲のたなびく遥(はる)か彼方であるらしい。(「万葉集 一」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より

(注)いづち【何方・何処】代名詞:どこ。どの方向。 ▽方向・場所についていう不定称の指示代名詞。 ※「ち」は方向・場所を表す接尾語。⇒いづかた・いづこ・いづら・いづれ(学研)

 

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その916)」で紹介している。

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■福岡県観世音寺 観世音寺万葉歌碑(巻三 三三六)■

福岡県観世音寺 観世音寺万葉歌碑(沙弥満誓)

●歌をみていこう。

 

 題詞は、「沙弥満誓詠綿歌一首  造筑紫觀音寺別當俗姓笠朝臣麻呂也」<沙弥満誓(さみまんぜい)、綿(わた)を詠(よ)む歌一首  造筑紫觀音寺別当、俗姓は笠朝臣麻呂なり>

(注)べったう【別当】名詞:①朝廷の特殊な役所である、検非違使庁(けびいしちよう)・蔵人所(くろうどどころ)・絵所・作物所(つくもどころ)などの長官。②院・親王家・摂関家大臣家などで、政所(まんどころ)の長官。③東大寺興福寺法隆寺などの大寺で、寺務を総括する最高責任者。 ※もと、本官のある者が別の職を兼務する意。「べたう」とも。(学研)

 

◆白縫 筑紫乃綿者 身箸而 未者伎袮杼 暖所見

        (沙弥満誓 巻三 三三六)

 

≪書き下し≫しらぬひ筑紫(つくし)の綿(わた)は身に付けていまだは着(き)ねど暖(あたた)けく見ゆ

 

(訳)しらぬひ筑紫、この地に産する綿は、まだ肌身に付けて着たことはありませんが、いかにも暖かそうで見事なものです。(「万葉集 一」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)しらぬひ 分類枕詞:語義・かかる理由未詳。地名「筑紫(つくし)」にかかる。「しらぬひ筑紫」。 ※中古以降「しらぬひの」とも。(学研)

(注)筑紫の綿:筑紫の女性の譬え。「綿」は真綿。(伊藤脚注)

(注)筑紫も捨てたものではないと私見を述べている。

 

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その920)」で紹介している。

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■福岡県太宰府市観世音寺 太宰府政庁跡バス停万葉歌碑(巻六 九五五)■

福岡県太宰府市観世音寺 太宰府政庁跡バス停万葉歌碑(大伴旅人

●歌をみていこう。

 

◆八隅知之 吾大王乃 御食國者 日本毛此間毛 同登曽念

        (大伴旅人    巻六 九五六)

 

≪書き下し≫やすみしし我(わ)が大君(おほきみ)の食(を)す国は大和(やまと)もここも同(おな)じとぞ思ふ

 

(訳)あまねく天下を支配されるわれらの大君がお治めになる国、その国は、大和もここ筑紫(つくし)も変わりはないと思っています。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)やすみしし【八隅知し・安見知し】分類枕詞:国の隅々までお治めになっている意で、「わが大君」「わご大君」にかかる。(学研)

(注)をす【食す】他動詞:①お召しになる。召し上がる。▽「飲む」「食ふ」「着る」「(身に)着く」の尊敬語。②統治なさる。お治めになる。▽「統(す)ぶ」「治む」の尊敬語。 ※上代語。(学研)

 

 

 題詞は、「帥大伴卿和歌一首」<  帥(そち)大伴卿(おほとものまへつきみ)が和(こた)ふる歌一首>である

 

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感想(0件)

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その921)」で紹介している。

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■福岡県太宰府市太宰府 大宰府政庁跡西側万葉歌碑(巻八 八一五)■

福岡県太宰府市太宰府 大宰府政庁跡西側万葉歌碑(紀卿)

●歌をみていこう。

 

◆武都紀多知 波流能吉多良婆 可久斯許曽 烏梅乎乎岐都ゝ 多努之岐乎倍米  [大貮紀卿]

        (紀卿 巻八 八一五)

 

≪書き下し≫正月(むつき)立ち春の来(きた)らばかくしこそ梅を招(を)きつつ楽(たの)しき終(を)へめ  [大弐(だいに)紀卿(きのまへつきみ)] 

 

(訳)正月になり春がやってきたなら、毎年このように梅の花を迎えて、楽しみの限りを尽くそう。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)こそ〔係助〕:已然形で意味的に切れるもの。上代にはきわめてまれで、しかも「うべしこそ」「かくしこそ」の形が主であったが、時代が下るとともに逆接関係で続くものより優勢となる(コトバンク  精選版 日本国語大辞典

(注)をく【招く】他動詞:招き寄せる。呼び寄せる。(学研)

(注)招(を)きつつ:客として招いては。(伊藤脚注)

(注)楽しき終へめ:楽しみの限りを尽くそう。雅宴の永続を願う冒頭歌。(伊藤脚注)

(注)大弐(だいに):律令制で、大宰府の次官(すけ)のうち、最上位のもの。権帥(ごんのそち)を欠くときに実務を執った(コトバンク デジタル大辞泉より)

(注)紀卿:未詳。紀朝臣男子か。「卿」は、三位以上に対する称であるが、賓客の中で最高位だったので興じて「卿」を着けたものか。

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その923)」で紹介している。

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■福岡県太宰府市坂本 坂本八幡宮万葉歌碑(巻八 一五四一)■

福岡県太宰府市坂本 坂本八幡宮万葉歌碑(大伴旅人) 20201117撮影

●歌をみていこう。

 

題詞は、「大宰帥大伴卿歌二首」<大宰帥大伴卿が歌二首>である。

 

◆吾岳尓 棹壮鹿来鳴 先芽之 花嬬問尓 来鳴棹壮鹿

        (大伴旅人 巻八 一五四一)

 

≪書き下し≫我が岡にさを鹿(しか)来鳴く初萩(はつはぎ)の花妻(はなつま)どひに来鳴くさを鹿

 

(訳)この庭の岡に、雄鹿が来て鳴いている。萩の初花を妻どうために来て鳴いているのだな、雄鹿は。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より

(注)さをしか【小牡鹿】名詞:雄の鹿(しか)。 ※「さ」は接頭語。(学研)

(注)はなづま【花妻】名詞:①花のように美しい妻。一説に、結婚前の男女が一定期間会えないことから、触れられない妻。②花のこと。親しみをこめて擬人化している。③萩(はぎ)の花。鹿(しか)が萩にすり寄ることから、鹿の妻に見立てていう語(学研)ここでは、③の意

 

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その924)」で紹介している。

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(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク デジタル大辞泉

★「コトバンク  精選版 日本国語大辞典