万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1384)―福井県越前市 万葉ロマンの道(3)―万葉集 巻十五 三七二五

●歌は、「我が背子しけだし罷らば白栲の袖を振らさね見つつ偲はむ」である。

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福井県越前市 万葉ロマンの道(3)万葉歌碑(狭野弟上娘子)

●歌碑は、福井県越前市 万葉ロマンの道(3)にある。

 

●歌をみていこう。

 

◆和我世故之 氣太之麻可良婆 思漏多倍乃 蘇R乎布良左祢 見都追志努波牟

       (狭野弟上娘子 巻十五 三七二五)

 

≪書き下し≫我(わ)が背子(せこ)しけだし罷(まか)らば白栲(そろたへ)の袖(そで)を振らさね見つつ偲(しの)はむ

 

(訳)いとしいあなた、あなたが万が一、遠い国に下って行かれるなら、その時は、まっ白な衣の袖を私に振って下さいね。せめてそれを見てお偲びしたいと思います。(「万葉集 三」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)けだし【蓋し】副詞:①〔下に疑問の語を伴って〕ひょっとすると。あるいは。②〔下に仮定の表現を伴って〕もしかして。万一。③おおかた。多分。大体。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)ここでは②の意

(注)まかる【罷る】自動詞:①退出する。おいとまする。▽高貴な人のもとから。②出向く。下向する。▽高貴な場所や都から地方へ行く。③参上する。参る。▽「行く」の謙譲語。④行きます。参ります。▽「行く」の丁寧語。⑤〔他の動詞の上に連用形が付いて〕…ます。…いたします。▽謙譲・丁寧の意。(学研)ここでは②の意

(注)しろたへ【白栲・白妙】名詞:①こうぞ類の樹皮からとった繊維(=栲)で織った、白い布。また、それで作った衣服。②白いこと。白い色。(学研)

(注の注)しろたへの【白栲の・白妙の】分類枕詞:①白栲(しろたえ)で衣服を作ることから、衣服に関する語「衣(ころも)」「袖(そで)」「袂(たもと)」「帯」「紐(ひも)」「たすき」などにかかる。②白栲は白いことから、「月」「雲」「雪」「波」など、白いものを表す語にかかる。(学研)

 

 「白栲・白妙」を詠んだ歌をみてみよう。

 

 「しろたへ」といえば、先ず頭に浮かぶのは持統天皇の歌であろう。

◆春過而 夏来良之 白妙能 衣乾有 天之香来山

      (持統天皇 巻一 二八)

 

≪書き下し≫春過ぎて夏来(きた)るらし白栲(しろたへ)の衣(ころも)乾(ほ)したり 天(あま)の香具山(かぐやま)

 

(訳)今や、春が過ぎて夏がやってきたらしい。あの天の香具山にまっ白い衣が干してあるのを見ると。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)白栲の:ここは、まっ白いの意。「栲」は楮の樹皮で作った白い布。(伊藤脚注)

(注)衣:白い布を斎衣と見たものか。(伊藤脚注)

 

 この歌を含む持統天皇の歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その117改)」で紹介している。(初期のブログであるのでタイトル写真には朝食の写真が掲載されていますが、「改」では、朝食の写真ならびに関連記事を削除し、一部改訂いたしております。ご容赦下さい。)

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 次は柿本人麻呂の歌である。「真っ白な麻の喪服」が詠われている。

 

◆・・・木綿花乃 榮時尓 吾大王 皇子之御門乎 <一云 刺竹 皇子御門乎> 神宮尓 装束奉而 遣使 御門之人毛 白妙乃 麻衣著 埴安乃 門之原尓 赤根刺 日之盡 鹿自物 伊波比伏管 烏玉能 暮尓至者・・・

      (柿本人麻呂 巻二 一九九)

 

≪書き下し≫・・・木綿花(ゆふばな)の 栄ゆる時に 我(わ)が大君 皇子(みこ)の御門(みかど)を <一には「刺す竹の 皇子の御門を」といふ> 神宮(かむにや)に 装(よそ)ひまつりて 使はしし 御門の人も 白栲(しろたへ)の 麻衣(あさごろも)着て 埴安(はにやす)の 御門の原に あかねさす 日のことごと 鹿(しし)じもの い匍(は)ひ伏しつつ ぬばたまの 夕(ゆうへ)になれば・・・

 

(訳)・・・まさに木綿花のようにめでたく栄えていた折も折、我が大君(高市)その皇子の御殿を<刺し出る竹のごとき皇の御殿を>御霊殿(みたまや)としてお飾り申し、召し使われていた宮人たちも真っ白な麻の喪服を着て、埴安の御殿の広場に、昼は日がな一日、鹿でもないのに腹這(はらば)い伏し、薄暗い夕方になると、・・・(同上)

(注)木綿花の:「栄ゆ」の枕詞(伊藤脚注)

(注)ししじもの【鹿じもの・猪じもの】分類枕詞:鹿(しか)や猪(いのしし)のようにの意から「い這(は)ふ」「膝(ひざ)折り伏す」などにかかる。(学研)

 

 この歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その1323)」で紹介している。

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 次は、大伴旅人の歌である。海人娘子の朝菜を取る光景をみて、自分たちも白妙の袖を濡らして取ろうと呼び掛けている歌である。

 

◆去来兒等 香椎乃滷尓 白妙之 袖左倍所沾而 朝菜採手六

      (大伴旅人 巻六 九五七) 

 

≪書き下し≫いざ子ども香椎(かしひ)の潟(かた)に白栲(しろたへ)の袖(そで)さへ濡(ぬ)れて朝菜(あさな)摘みてむ

 

(訳)さあ皆の者、この香椎の干潟で、袖の濡れるのも忘れて、朝餉(あさげ)の藻を摘もうではないか。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より

(注)いざ子ども:宴席等で目下の者を呼ぶ慣用語。(伊藤脚注)

(注)白妙の:「袖」の枕詞。以下、女性の行為のような映像がある。眼前に朝菜を取る海人娘子を見ているからか。(伊藤脚注)

 

 この歌についてはブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その873)」で紹介している。

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 次の歌では、「雲」に懸る枕詞として使われている。

 

◆真十鏡 可照月乎 白妙乃 雲香隠流 天津霧鴨

       (作者未詳 巻七 一〇七九)

 

≪書き下し≫まそ鏡照るべき月を白栲(しろたへ)の雲か隠せる天(あま)つ霧(きり)かも

 

(訳)もう照り出してもよさそうな月なのに、その月を、白い雲が隠しているのであろうか。それとも、天(そら)に立つ霧が隠しているのであろうか。(同上)

(注)まそかがみ【真澄鏡】名詞:「ますかがみ」に同じ。 ※「まそみかがみ」の変化した語。上代語。(学研)

(注の注)ますかがみ【真澄鏡】名詞:よく澄んで、くもりのない鏡。 ※「ますみのかがみ」の変化した語。中古以後の語で、古くは「まそかがみ」。(学研)

(注)まそかがみ【真澄鏡】分類枕詞:鏡の性質・使い方などから、「見る」「清し」「照る」「磨(と)ぐ」「掛く」「向かふ」「蓋(ふた)」「床(とこ)」「面影(おもかげ)」「影」などに、「見る」ことから「み」を含む地名「敏馬(みぬめ)」「南淵山(みなぶちやま)」にかかる。(学研)

(注)白妙の:「雲」の枕詞。

 

 

 ここでは「真っ白い布」の意で使われていると思われる。

 

白栲尓 丹保布信土之 山川尓 吾馬難 家戀良下

       (作者未詳 巻七 一一九二)

 

≪書き下し≫白栲(しろたへ)ににほふ真土(まつち)の山川(やまがわ)に我(あ)が馬なづむ家恋ふらしも

 

(訳)白い栲(たえ)の布のように照り映える真土の山を流れる谷川で、私の乗っている馬が行き悩んでいる。あとに残してきた家の者が私を恋い慕っているらしい。(同上)

(注)にほふ【匂ふ】自動詞:①美しく咲いている。美しく映える。②美しく染まる。(草木などの色に)染まる。③快く香る。香が漂う。④美しさがあふれている。美しさが輝いている。(学研)ここでは①の意

(注)まつちやま【真土山】:奈良県五條市和歌山県橋本市との境にある山。吉野川(紀ノ川)北岸にある。[歌枕](コトバンク デジタル大辞泉

(注)なづむ【泥む】自動詞:①行き悩む。停滞する。②悩み苦しむ。③こだわる。気にする。(学研)ここでは①の意

 

 

 

 次の歌では「まっ白」の意で使われている。

 

◆梅枝尓 鳴而移徙 鴬之 翼白妙尓 沫雪曽落

      (作者未詳 巻十 一八四〇)

 

≪書き下し≫梅が枝(え)に鳴きて移ろふうぐひすの羽(はね)白妙(しろたへ)に沫雪(あわゆき)ぞ降る

 

(訳)梅の枝から枝へと鳴きながら飛び移っている鶯の、その羽も真っ白になるほど、泡雪が降っている。(同上)

(注)羽白妙に:羽が真っ白になるほど。(伊藤脚注)

(注)あわゆき【沫雪・泡雪】名詞:泡のように消えやすい、やわらかな雪。(学研)

 

 

 

 三三二四歌では、「白細布」を「しろたえ」と読み白い布を意味している。三三二五歌の反歌にも「白栲」が詠われているので通してみてみよう。

 

◆挂纒毛 文恐 藤原 王都志弥美尓 人下 満雖有 君下 大座常 徃向 年緒長 仕来 君之御門乎 如天 仰而見乍 雖畏 思憑而 何時可聞 日足座而 十五月之 多田波思家武登 吾思 皇子命者 春避者 殖槻於之 遠人 待之下道湯 登之而 國見所遊 九月之 四具礼乃秋者 大殿之 砌志美弥尓 露負而 靡芽乎 珠手次 懸而所偲 三雪零 冬朝者 刺楊 根張梓矣 御手二 所取賜而 所遊 我王矣 烟立 春日暮 喚犬追馬鏡 雖見不飽者 万歳 如是霜欲得常 大船之 憑有時尓 涙言 目鴨迷 大殿矣 振放見者 白細布 餝奉而 内日刺 宮舎人方 <一云 者> 雪穂 麻衣服者 夢鴨 現前鴨跡 雲入夜之 迷間 朝裳吉 城於道従 角障經 石村乎見乍 神葬 ゝ奉者 徃道之 田付▼不知 雖思 印手無見 雖歎 奥香乎無見 御袖 徃觸之松矣 言不問 木雖在 荒玉之 立月毎 天原 振放見管 珠手次 懸而思名 雖恐有

       (作者未詳 巻十三 三三二四)

 ▼は、「口偏+刂」=「を」 「田付▼不知」=「たづきをしらに」

 

≪書き下し≫かけまくも あやに畏(かしこ)し 藤原(ふぢはら)の 都しみみに 人はしも 満ちてあれども 君はしも 多くいませど 行き向(むか)ふ 年の緒(を)長く 仕(つか)へ来(こ)し 君の御門(みかど)を 天(あめ)のごと 仰(あふ)ぎて見つつ 畏(かしこ)けど 思ひ頼みて いつしかも 日(ひ)足(た)らしまして 望月(もちづき)の 満(たたは)しけむと 我(わ)が思(おも)ふ 皇子(みこ)の命(みこと)は 春されば 植(うゑ)槻(つき)が上(うへ)の 遠つ人 松の下道(したぢ)ゆ 登らして 国見(くにみ)遊ばし 九月(ながつき)の しぐれの秋は 大殿(おほとの)の 砌(みぎり)しみみに 露(つゆ)負(お)ひて 靡(なび)ける萩(はぎ)を 玉たすき 懸(か)けて偲(しの)はし み雪降る 冬の朝(あした)は 刺(さ)し柳(やなぎ) 根張(ねは)り梓(あづさ)を 大御手(おほみて)に 取らしたまひて 遊ばしし 我(わ)が大君(おほきみ)を 霞(かすみ)立つ 春の日暮(く)らし まそ鏡 見れど飽(あかねば 万代(よろづよ)に かくしもがもと 大船(おほぶね)の 頼める時に 泣く我(わ)れ 目かも迷(まと)へる 大殿(おほとの)を 振(ふ)り放(さ)け見れば 白栲(しろたへ)に 飾(かざ)りまつりに うちひさす 宮の舎人(とねり)も <一には「は」といふ> 栲(たへ)のほの 麻衣(あさぎぬ)着(け)れば 夢(いめ)かも うつつかもと 曇(くも)り夜(よ)の 迷(まと)へる間(あひだ)に あさもよし 城上(きのへ)の道ゆ つのさはふ 磐余(いはれ)を見つつ 神葬(かむはぶ)り 葬(はぶ)りまつれば 行く道の たづきを知らに 思へども 験(しるし)をなみ 嘆けども 奥処(おくか)をなみ 大御袖(おほみそで) 行き触(ふ)れし松を 言(こと)とはぬ 木にはありとも あらたまの 立つ月ごとに 天(あま)の原 振り放(さ)け見つつ 玉たすき 懸(か)けて偲(しの)はな 畏(かしこ)くあれども

 

(訳)心にかけるのさえ恐れ多いことだが、あえて言葉に出して申しあげよう。藤原の都いっぱいに人は満ち満ち、君と呼ばれる方はたくさんいらっしゃるけれど、廻(めぐ)り来る年月長くお仕えしてきた我が君の御殿、その御殿を、天のように仰ぎ見ながら、恐れ多いけれども行く末を頼みに思い、一刻も早くご立派になられて満月のように満ち足りてほしいと、われらが思いに思ってきたその皇子の命(みこと)は、春になると、植槻の岡のほとりの松の下道を登って国見をなさり、九月(ながつき)の時雨降る秋には、御殿の石畳のあたりいっぱいに露を負って靡いている萩を、しみじみと心に懸けて賞(め)でられ、雪の降る冬の朝は朝で、刺し柳が根を張るようにぴんと張った梓の弓を、大御手に振りかざして猟をなさった、われらが頼りとするそんな皇子だったものだから、霞の立ちこめる春の長い一日をずっと見暮らしても見飽きないほどなので、いついつまでもこのように栄えてほしいと、大船に乗ったように頼みきっていた折も折、あまりな報せに泣き暮れる私は目でも狂ったのか、御殿を振り仰いで見ると、白い布でお飾り申し、宮の舎人たちもまっ白な麻の喪服を着ているので、これは夢なのかうつつなのかと、曇り夜のように何が何だかわけがわからずにいるうちに、城上の道を、磐余を目指して神として葬り申しあげたので、道に立っても方角もわからず、どう思っても甲斐がなく、どう嘆いてもきりがなく、せめて皇子の大御袖が国見の行きずりに触れた松、あの松を、物言わぬ木ではあっても、月改まるごとに空遠く振り仰いでは、心の底からお偲び申そう。恐れ多いことではあるけれども。(「万葉集 三」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)かけまくも 分類連語:心にかけて思うことも。言葉に出して言うことも。 ⇒なりたち 動詞「か(懸)く」の未然形+推量の助動詞「む」の古い未然形「ま」+接尾語「く」+係助詞「も」(学研)

(注)しみみに【繁みみに・茂みみに】副詞:すきまなくびっしりと。「しみに」とも。 ※「しみしみに」の変化した語。(学研)

(注)しも 副助詞《接続》体言、活用語の連用形・連体形、副詞、助詞などに付く。:①〔多くの事柄の中から特にその事柄を強調する〕…にかぎって。②〔強調〕よりによって。折も折。ちょうど。▽多く「しもあれ」の形で。③〔逆接的な感じを添える〕…にもかかわらず。かえって。▽活用語の連体形に付く。④〔部分否定〕必ずしも…(でない)。▽下に打消の語を伴う。(学研)ここでは①の意

(注)ゆきむかふ【行き向かふ】自動詞:①次々と過ぎ去っては、またやって来る。多く、年月が去来することにいう。②出かけて行く。出向く。立ち向かって行く。(学研)ここでは①の意

(注)いつしかも【何時しかも】分類連語:〔下に願望の表現を伴って〕早く(…したい)。今すぐにも(…したい)。 ⇒なりたち 副詞「いつしか」+係助詞「も」(学研)

(注)ひたる【日足る】[動ラ四]:成長する。成人する。(weblio辞書 デジタル大辞泉

(注)もちづきの【望月の】分類枕詞:①満月には欠けた所がないことから「たたはし(=満ち足りる)」や「足(た)れる」などにかかる。②満月の美しく心ひかれるところから「愛(め)づらし」にかかる。(学研)ここでは①の意

(注)たたはし 形容詞:①満ち足りている。完全無欠である。◇「たたはしけ」は上代の未然形。②いかめしく、おごそかである。威厳がある。(学研)ここでは①の意

(注)植槻:大和郡山市北部の殖槻寺跡と伝える地一帯か。(伊藤脚注)

(注)とほつひと【遠つ人】分類枕詞:①遠方にいる人を待つ意から、「待つ」と同音の「松」および地名「松浦(まつら)」にかかる。「とほつひと松の」。②遠い北国から飛来する雁(かり)を擬人化して、「雁(かり)」にかかる。(学研)ここでは①の意

(注)みぎり【砌】名詞:①雨滴を受けるために、軒下などに石などを敷いた所。また、転じて、庭。②場所。所③時。折。場合。 ⇒参考 「水(み)限(きり)(=「限(きり)」は限(かぎ)る意)」↓「水(み)切(ぎ)り」からの語。(学研)ここでは①の意

(注)さしやなぎ【差(し)柳/挿(し)柳】:①[名]挿し木にした柳。一説に、芽を出した柳。《季 春》②[枕]挿し木した柳が根を張る意から、「根」にかかる。(weblio辞書 デジタル大辞泉)ここでは②の意

(注)ひぐらし【日暮らし】副詞:朝から晩まで。一日じゅう。「ひくらし」とも。(学研)

(注)白栲に飾りまつりて:白い布でお飾り申し。生前の宮を殯宮にしつらえたことをいう。(伊藤脚注)

(注)栲の穂(ほ):(「穂」は、秀(ほ)の意で、栲の白さの著しさをいう)まっ白の意。純白。(広辞苑無料検索 日本国語大辞典

(注)くもりよの【曇り夜の】:[枕]曇りの夜は物の区別もさだかでないところから、「たどきも知らず」「あがしたばへ」「迷 (まど) ふ」などにかかる。(goo辞書)

(注)あさもよし【麻裳よし】分類枕詞:麻で作った裳の産地であったことから、地名「紀(き)」に、また、同音を含む地名「城上(きのへ)」にかかる。(学研)

(注)つのさはふ 分類枕詞:「いは(岩・石)」「石見(いはみ)」「磐余(いはれ)」などにかかる。語義・かかる理由未詳。(学研)

(注)たづき【方便】名詞:①手段。手がかり。方法。②ようす。状態。見当。 ⇒参考 古くは「たどき」ともいった。中世には「たつき」と清音にもなった。(学研)ここでは②の意

(注)おくか【奥処】名詞:①奥まった所。果て。②将来。 ※「か」は場所の意の接尾語。(学研)ここでは①の意

(注)立つ月>月立つ 分類連語:月が改まる。月が変わる。(学研)

 

 

◆角障經 石村山丹 白栲 懸有雲者 皇可聞

       (作者未詳 巻十三 三三二五)

 

≪書き下し≫つのさはふ磐余(いはれ)の山に白栲(しろたへ)にかかれる雲は大君にかも

 

(訳)ああ、かなた磐余の山に、白い布のようにかかっている雲、あれは、亡き皇子なのであろうか。(同上)

(注)白栲にかかれる雲:火葬したのでこの表現がある。(伊藤脚注)

(注)大君にかも:「大君にかもあらむ」の意。(伊藤脚注)

 

 「しろたへの」ではじまる歌は、四八一、五一〇、六四五、二四一一、二六〇九、二六一二、二六九〇、二八五四、二九三七、二九六二、二九六三、三一八一、三一八二、三二一五、三四四九、三六〇七、三七五一、三七七八と多数収録されているが割愛させていただきます。

 

 「白妙・白栲」の衣や布の白さはイメージとして、少し茶黄ばんだ感じで雪や雲の白さとも差があると思う。しかし万葉びとには、その「白さ」は輝く白さであったのだろう。現代の漂白された白っぽさと比べて暖かみのある白さだったのだろう。技術的には不純物との闘いであったが、人としてみた場合彼らの方がはるかに純粋であったように思える。

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「weblio辞書 デジタル大辞泉

★「コトバンク デジタル大辞泉

★「goo辞書」

★「広辞苑無料検索 日本国語大辞典