万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2479)―

●歌は、「忘れ草我が紐に付く香具山の古りにし里を忘れむがため」である。

茨城県石岡市小幡 ライオンズ広場万葉の森万葉歌碑(プレート) 20230927撮影

●歌碑(プレート)は、茨城県石岡市小幡 ライオンズ広場万葉の森にある。

 

●歌をみてみよう。

 

◆萱草 吾紐二付 香具山乃 故去之里乎 忘之為

大伴旅人 巻三 三三四)

 

≪書き下し≫忘れ草我(わ)が紐(ひも)に付く香具山の古りにし里を忘れむがため

 

(訳)忘れ草、憂いを忘れるこの草を私の下紐に付けました。香具山のあのふるさと明日香の里を、いっそのこと忘れてしまうために。(同上)

(注)わすれぐさ【忘れ草】名詞:草の名。かんぞう(萱草)の別名。身につけると心の憂さを忘れると考えられていたところから、恋の苦しみを忘れるため、下着の紐(ひも)に付けたり、また、垣根に植えたりした。歌でも恋に関連して詠まれることが多い。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

三三一から三三五歌の題詞は、「帥大伴卿歌五首」<帥大伴卿(そちのおほとものまへつきみ)が歌五首>である。

                           

 この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その905)」で紹介している。

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 「忘れ草」については、集中五首に詠まれている。これについては拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その334)」で紹介している。

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 「三三四歌の歌碑」は、奈良県橿原市薬師寺阯にもある。この歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その135改)」で紹介している。

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「忘れ草」というと「忘れ貝」が思い浮かぶ。「忘れ貝」「恋忘れ貝」ともそれぞれ五首が詠まれている。

 

「忘れ貝」を歌った一首「巻十一 二七九五」をみてみよう。

◆木國之 飽等濱之 忘貝 我者不忘 年者経管

        (作者未詳 巻十一 二七九五)

 

≪書き下し≫紀伊の国(きのくに)の飽等の浜の忘れ貝我れは忘れじ年は経ぬとも

 

(訳)紀伊の国(きのくに)の飽等(あくら)の浜の忘れ貝、その貝の名のように、私はあなたを忘れたりはすまい。年は過ぎ去って行っても。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)上三句は序。「忘れ」を起こす。

(注)飽等の浜:所在未詳

(注)わすれがひ【忘れ貝】名詞:手に持つと、恋の苦しさを忘れさせる力があるという貝。和歌では「忘る」の序詞(じよことば)を構成することが多い。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

この歌碑は、和歌山市加太 田倉崎灯台下にある。拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1200)」で紹介している。

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 「忘れ貝」「恋忘れ貝」の歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その740)」で紹介している。

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 忘れようとする「忘れ草」に対して、失った恋を想い、そっと佇む可憐な姿を思い浮かべさせる「思ひ草」もある。

 こちらの歌もみてみよう。

 

◆道邊之 乎花我下之 思草 今更尓 何物可将念

       (作者未詳 巻十 二二七〇)

 

≪書き下し≫道の辺(へ)の尾花(をばな)が下(した)の思(おも)ひ草(ぐさ)今さらさらに何をか思はむ

 

(訳)道のほとりに茂る尾花の下蔭の思い草、その草のように、今さらうちしおれて何を一人思いわずらったりするものか。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)上三句は序。下二句の譬喩。(伊藤脚注)

(注) おもひぐさ【思草】〘名〙:① 植物「なんばんギセル(南蛮煙管)」の異名。《季・秋》② 植物「おみなえし(女郎花)」の異名。③ タバコの異称。 ⇒[補注]どの植物を指すのかについては古来諸説がある。和歌で「尾花が下の思草」と詠まれることが多いところから、ススキなどの根に寄生する南蛮煙管と推定されている。「思ふ」を導いたり、「思ひ種」にかけたりして用いられるが、下向きに花をつける形が思案する人の姿を連想させることによるものか。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典

(注)いまさら【今更】副詞:今はもう。今になって。今改めて。(学研)

(注)さらに【更に】副詞:①改めて。新たに。事新しく。今さら。②その上。重ねて。いっそう。ますます。③〔下に打消の語を伴って〕全然…(ない)。決して…(ない)。少しも…(ない)。いっこうに…(ない)。(学研)

(注の注)さらさら【更更】副詞:①ますます。改めて。②〔打消や禁止の語を伴って〕決して。(学研)

 

 こちらは、集中この一首しかない。この歌については拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1302)」で紹介している。

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 「ナンバンキセル」の花を初めて見たのは、2021年8月19日である。以来毎年平城宮跡にナンバンキセルの花を追っかけているのである。

 

 2023年は、8月10日から10月11日まで何と10回も平城宮跡に足を運んでいるのである。夏が暑かったせいか10月に入っても花を見ることができたのである。時の移ろいとともに枯れてしまった花、黒く寂しくも哀愁がただようが、それなりに可憐さを持ち合わせているのである。

 



 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク 精選版 日本国語大辞典