●歌は、「明日香川瀬々に玉藻生ひたれどしがらみあれば靡きあらなくに(作者未詳 7-1380)」
【明日香川】
「(作者未詳 巻七 一三八〇)(歌は省略) ・・・この川筋を中心に定住した万葉人たちが、朝夕見なれた親しい里川に、抒情の場をもとめたにすぎない。・・・飛鳥の人たち、飛鳥文化もつまりはこの川筋によったものだ。・・・いちど雨が降れば『水ゆきまさり』『水脈(みを)早み』の『高川』となるし、ふだんは『上つ瀬』『下つ瀬』『早き瀬』『七瀬』『瀬々』の玉藻や千鳥や河鹿(かじか)の清流となり、『石橋(いしはし)』(飛び石)を渡って妻のもとにも通い、『しがらみ』(杭をうって竹や枝をからませたダム)をかけて灌漑に便する。まったく一日として飛鳥びとに欠くことのできない川だ。この歌にしても、しがらみのために川藻のなびきあわない実景を日々の生活のなかによく見ていればこそ、恋のしがらみのなげきも、その実景にのりかかってうたわれるわけである。」(「万葉の旅 上 大和」 犬養 孝 著 平凡社ライブラリーより)
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一三八〇歌をみていこう。
■巻七 一三八〇歌■
◆明日香川 湍瀬尓玉藻者 雖生有 四賀良美有者 靡不相
(作者未詳 巻七 一三八〇)
≪書き下し≫明日香川瀬々(せぜ)に玉藻は生(お)ひたれどしがらみあれば靡きあはなくに
(訳)明日香川の瀬ごとに玉藻は生えているけれど、しがらみが設けてあるので靡きあうことができないでいる。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)
(注)上三句、男女が相思相愛であることをいう。(伊藤脚注)
(注)しがらみ:流れの堰。仲を妨げる者の譬え。(伊藤脚注)
(注の注)しがらみ【柵】名詞:(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その180改)」で紹介している。
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初句に「明日香川」と詠まれている歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その153)」で紹介している。
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初句以外に「明日香川」が詠まれている歌については、同「同(その157改)」で紹介している。
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「しがらみがとれさえすれば、(作者未詳 巻十三‐三二六七)(歌は省略)となって、みずからの風土のなかにしみこんだ歌が、土地の人の間にうたわれるのだ。」(同著)
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三二六七歌をみてみよう。
■巻十三 三二六七歌■
◆明日香河 瀬湍之珠藻之 打靡 情者妹尓 因来鴨 (巻十三 三二六七)
≪書き下し≫明日香川瀬々(せぜ)の玉藻のうち靡き心は妹(いも)に寄りにけるかも
(訳)明日香川の瀬という瀬に生い茂って靡いている玉藻のように、ただひたすらに、私の心はあなたに靡き寄ってしまったよ。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)
(注)上二句は序。はっきりと逢ってから相手のとりこになったという歌。(伊藤脚注)
◆◆万葉集にうたわれている「思ひ草(ナンバンキセル)」探索◆◆
連日「熱中症警戒アラート」が発出されている。特に今年は厳しい。例年であれば7月末から数回、平城宮跡へナンバンキセルの探索に行っているのであるが、今年はアラートに敬意を表しいまだに出動出来ていなかった。
8月16日は、朝から曇りで、9時ごろの気温は30度を若干下回っていた。こんな機会はない。急いで平城宮跡へ。
駐車場に車を停め、朱雀門方面へ。暑さにジリジリ感がない。助かった。
いつもの場所を探索する。荻の根元を丹念に。全然見つからない。異常な暑さのせいか。
かなり幅広く探索するも発見できず。
あきらめて帰ろうとするがあきらめきれず、最初に探したエリアをもう一度探す。
ようやくわずかであるが見つけることができた。まだ蕾である。しかも例年より間延びした感じがする。すこし色づいているので間違いはない。
2,3日で開花するかもしれない。また会いにこよう。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「万葉の旅 上 大和」 犬養 孝 著 (平凡社ライブラリー)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」