万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう―万葉歌碑を訪ねて(その2461)―

●歌は、「さ衣の小筑波嶺ろの山の崎忘ら来ばこそ汝を懸けなはめ」である。

茨城県つくば市大久保 つくばテクノパーク大穂万葉歌碑(作者未詳) 20230927撮影

●歌碑は、茨城県つくば市大久保 つくばテクノパーク大穂にある。

 

●歌をみてみよう。

 

◆左其呂毛能 乎豆久波祢呂能 夜麻乃佐吉 和須良許婆古曽 那乎可家奈波賣

       (作者未詳 巻十四 三三九四)

 

≪書き下し≫さ衣(ごろも)の小筑波嶺(をつくばね)ろの山の崎(さき)忘(わす)ら来(こ)ばこそ汝(な)を懸けなはめ

 

(訳)さ衣の紐のではないが、筑波の山の崎よ、お前さんを忘れて行けるものなら、お前さんの名前を口の端に懸けずにいられようが・・・(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)さ衣の:「小筑波」の枕詞。緒の意。(伊藤脚注)

(注の注)さごろもの【狭衣の】分類枕詞:衣には緒(を)(=紐(ひも))をつけることから「緒」と同音の「小(を)」を含む地名「小筑波(をづくは)」にかかる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)山の崎:妻に見立てている。(伊藤脚注)

(注)忘ら来ば:忘れて行くことができたら。「忘ら」は「忘れ」の東国形か。(伊藤脚注)

(注)汝を懸けなはめ:お前を口に懸けずにいられようが。ナハは打消ナフの未然形。(伊藤脚注)

(注の注)なふ 助動詞特殊型《接続》動詞の未然形に付く。 ※上代の東国方言。(学研)

 

 三三九四歌の「筑波嶺」のほかに「筑波」の用例が三三九五・三三九六歌に見られる。

 「小」を「を」と読む例は、一七七七歌の「櫛(をぐし)」、一七八〇歌の「舟(をぶね)」・「楫(をかじ)」、一五七六歌の「鹿(をじか)」、三五七四歌の「里(をさと)」、一八〇〇歌の「垣内(をかきつ)」、一〇七三歌・二三六四歌の「小簾(をす)」などにみられる。

 

 一七七七歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その691)」で紹介している。

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 一七八〇歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1172)」で紹介している。

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 一五七六歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2360)」で紹介している。

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 一八〇〇歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その2355)」で紹介している。

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 二三六四歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1122)」で紹介している。

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 「小筑波嶺」、「小筑波」は、女体の嶺といった特別な意味合いがあるのかと調べてみたが、例えば、「つくばね(筑波嶺)」について、万葉神事語辞典(國學院大學デジタルミュージアム)には、「山名。茨城県の筑波・新治・真壁の三郡にまたがる山。山頂は女体・男体の二峰に分かれ山頂には筑波神社が祀られる。記の『新治 筑波を過ぎて 幾夜か寝つる』(25番歌謡)という片歌による問答は、倭建命の東征においてアヅマ一帯を『言向け』したことを確認するものである。また常陸国風土記筑波郡の条では、五穀を神に奉る新嘗祭の神の来訪譚において、富士の神が宿泊を拒絶したことにより年中雪が積もり、一方筑波の神は外来者を款待することにより、筑波山の繁栄を讃える伝承を伝える。続いて青年男女が歌舞飲食し、婚姻の相手を探す歌垣の習俗が記述される。歌垣の行事は上代文献において散見されるが、万葉集においても高橋虫麿の歌に『筑波嶺に登りて?歌会を為る日に作る歌』(9-1759~60)とあり筑波山における歌垣の様子を伝える。一方巻14の東歌や巻20の防人歌に『筑波嶺』『筑波の山』『小筑波』のように見える。また『鶏が鳴く 東の国に 高山は さはにあれども 二神の 貴き山の 並み立ちの 見が欲し山と 神代より 人の言ひ継ぎ』(3-382)とあり、筑波の岳は神代の昔から男女二神が鎮座する貴い山であり、農作物の豊穣を予祝する国見の儀礼を行うのだという。)と書かれているが、特に「小筑波」について言及されていない。

 

 「筑波山」は、集中二十五首に詠まれており、山としては富士山の十一首をはるかに凌いでいる。常陸の国の歌十首では九首に詠まれているほど地元では親しみをもって接せられている山といえよう。

 

 接頭語「を」で検索してみたがヒットしない。「こ(小)」で見てみると次の通りである。

「こ【小】:〘接頭〙 名詞や用言の上に付いて、小さい、わずかな、などの意味を加える。

① 名詞の上に付いて、その物が、小さい、細かい、などの意を表わす。親愛の情の意を含むこともある。『小島』『小山』『小屋』『小石』など。

古事記(712)下・歌謡『宮人の 脚結(あゆひ)の古(コ)鈴 落ちにきと 宮人とよむ 里人もゆめ』

② 名詞の上に付いて、その量がわずかであることを示す。いささかの。『小降り』『小銭』『小人数』など。

※万葉(8C後)一一・二四五六『ぬばたまの黒髪山の山菅に小雨降りしきしくしく思ほゆ』

③ 人、あるいは生き物を表わす名詞の上に付いて、年若なものであることを表わす。若い。後輩の。幼い。『小冠者』『小犬』『小童』など。

※源氏(1001‐14頃)乙女『小侍従やさぶらふ』

④ 数量を表わす名詞、数詞の上に付いて、その数量にはわずかに及ばないが、ほぼそれに近い意を表わす。およそ。ほぼ。『小半時』『小一時間』『小一里』など。

北野天満宮目代日記‐目代昭世引付・天正一三年(1585)正月「十四日の小四つ時まで待候へ共」

⑤ 名詞の上に付いて、下の述語の表わす動作・状態の量や程度の小さいことを表現する。人体の一部を示す名詞に付くことが多い。すこし。ちょっと。『小首をかしげる』『小当たりに当たる』など。

※宇治拾遺(1221頃)一五『袖うちおろして、こつばきはきてゐたりけり』

※四河入海(17C前)二〇『くいくいと小腹が立て』

⑥ 動詞・形容詞・形容動詞・副詞などの上に付いて、その動作・状態の量や程度が小さいことを表わす。すこし。なんとなく。『小ざっぱり』『小高い』など。

古事記(712)下・歌謡『大和の この高市(たけち)に 古(コ)高る 市の高処(つかさ)』

⑦ 名詞や用言などの上に付いて、軽んじたり、やや馬鹿にしたような意味を表わす。なまはんかな。『小せがれ』『小憎らしい』など。

漢書列伝竺桃抄(1458‐60)酈陸朱劉叔孫第一三『堅儒は小餓鬼めがと云やうな心ぞ』

⑧ 名詞や用言の上に付いて、ほとんど意味を加えることなく、語調を整えたり、強めたりするために添える。『こ甘い』『小しゃく』など。」(コトバンク 精選版 日本国語大辞典

 

 「小舟」「小鹿」などは「小さい」が強く意識される場合と区別すべく、「こぶね」⇒「をぶね」、「こじか」⇒「をじか」と音変化したと考えられる。

 

 接頭語「こ【小】」の⑧の「名詞や用言の上に付いて、ほとんど意味を加えることなく、語調を整えたり、強めたりするために添える。」と考えて良いと思われる。

 「小楫(をかじ)」、「小鹿(をじか)」、「小里(をさと)」、「小垣内(をかきつ)」、「小簾(をす)」など。

 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫より)

★「万葉神事語辞典」 (國學院大學デジタルミュージアム

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク 精選版 日本国語大辞典