●歌は、「奥山のしきみが花の名のごとやしくしく君に恋ひわたりなむ(大原真人今城 20-4476)」である。

引用させていただきました。
「『悪しき実』がシキミの語源だ。その名のとおり毒のある植物である。・・・現在はシキミ科として独立して扱われている。3~4月頃にかけて咲く花は、白あるいは乳白色でとても美しい。清楚な乙女を連想させる花だ。・・・シキミをコウノキ、コウノハナ、マッコウノキ、ホトケバナ、ハカバナなどと呼ぶ地方があることでも分かるとおり、仏事関係の植物として使われていることがはっきりしている。『枕草紙』の記述などからも、神事の榊(さかき)、仏事の樒(しきみ)というのが平安時代には定着していたようである。(後略)」(「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)より)
歌をみてみよう。
■■巻二十 四四七五・四四七六歌■■
題詞は、「廿三日集於式部少丞大伴宿祢池主之宅飲宴歌二首」<二十三日に、式部少丞(しきぶのせうじよう)大伴宿禰池主が宅(いへ)に集(つど)ひ飲宴(うたげ)する歌二首>である。
(注)歌二首:共に恋歌仕立てに思いを深めている。(伊藤脚注)
■巻二十 四四七六歌■
◆於久夜麻能 之伎美我波奈能 奈能其等也 之久之久伎美尓 故非和多利奈無
(大原真人今城 巻二十 四四七六)
≪書き下し≫奥山のしきみが花の名のごとやしくしく君に恋ひわたりなむ
(訳)奥山に咲くしきみの花のその名のように、次から次へとしきりに我が君のお顔が見たいと思いつづけることでしょう、私は。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)
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(注)しきみ:モクレン科の常緑高木。「頻き見」を懸ける。(伊藤脚注)
(注)しきみ【樒】名詞:木の名。全体に香気があり、葉のついた枝を仏前に供える。また、葉や樹皮から抹香(まつこう)を作る。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
(注)しくしく(と・に)【頻く頻く(と・に)】副詞:うち続いて。しきりに。(学研)
題詞にあるように「大伴宿禰池主が宅(いへ)に集(つど)ひ飲宴(うたげ)する歌」であるが、この集いに誰が参加したのかは不明である。ただ大原真人今城の歌が二首収録されているだけである。
家持が「族(やから)を喩す歌」(四四六五歌)を詠んだのが同年六月一七日であるから、藤原氏一族との対峙の緊張感はピークに達している頃である。この時期、宴にあって反仲麻呂の話題が出ないはずはない。
しかも宴であれば、家持の歌が顔を覗かすが、集まった家の主の池主の歌も収録されていないのである。ただならぬ雰囲気を漂わしている。
藤井一二氏は、その著「大伴家持 波乱にみちた万葉歌人の生涯」(中公新書)のなかで、「・・・一一月二三日、大伴池主宅で飲宴(うたげ)が催された。時に池主は式部少丞(しきぶのしょうじょう)の職にあった。集まった顔ぶれは明らかではないが、ただ一人、兵部大丞(ひょうぶのだいじょう)の大原今城が歌を作っている。・・・大伴池主・大原今城が集えば、親しい関係にある大伴家持も参会していてよいはずである。しかし歌は残されていない。この時、家持は参加していなかったと私には思われる。」と書かれている。
さらに同氏は、「私は、この最終局面にいたって池主は家持との間に距離をおいたのではないか、家持を反仲麻呂の画策の中に巻き込まない方向で今城と対応を協議したのではと考えている。池主と家持は、幼少期を含めれば三〇年以上におよぶ親交の歳月を共有していた・・・池主は、幼少期を含め生涯を通じて家持と集いを共にする機会も多く、その性格と歌作の才を最も評価しうる立場にあった。家持の苦悩する人間関係とともに、自らの歌作に留まらず大伴氏を中心とする一大歌集の編纂にむけて情熱を傾注する家持を目の当たりにし、池主自身が家持を政局に巻き込まない方向でそこから離れる道を選んだのだと推察する。」と書かれている。
大伴池主の名前はこれ以降万葉集から消える。
さらに池主は奈良麻呂の変に連座し歴史からも名を消したのである。
家持も池主のかかる思いに支えられ万葉集というとてつもない作品を編纂に注力することができたのであろう。
当該歌の歌碑をみてみよう。
■東近江市糠塚町 万葉の森船岡山万葉歌碑

20191023撮影
■和歌山市岩橋 紀伊風土記の丘万葉植物園万葉歌碑(プレート)

(大原真人今城 20-4476) 20200819撮影
■一宮市萩原町 萬葉公園万葉歌碑(プレート)■

20210216撮影
■奈良市春日野町 春日大社神苑萬葉植物園万葉歌碑<プレート>■

(大原真人今城 20-4476) 20210427撮影
■兵庫県加古郡稲美町 稲美中央公園万葉の森万葉歌碑<プレート>■

(大原真人今城 20-4476) 20200702撮影
■愛知県蒲郡市西浦町 万葉の小径 万葉歌碑<プレート>■

■広島県呉市倉橋町 万葉植物公園万葉歌碑<プレート>■

■松山市御幸町 護国神社・万葉苑万葉歌碑<プレート>■

■高知県大豊町粟生 土佐豊永万葉植物園万葉歌碑■

20221130撮影
■名古屋市千種区東山元町 東山動植物園万葉の散歩道万葉歌碑(プレート)■

(大原真人今城20-4476) 20210216撮影
■千葉県袖ケ浦市下新田 袖ヶ浦公園万葉植物園万葉歌碑(プレート)■

(大原真人今城 20-4476) 20230926撮影
■茨城県土浦市小野 朝日峠展望公園万葉の森万葉歌碑■

■国分寺市西元町 国分寺万葉庭園万葉歌碑(プレート)■

(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「万葉集 四」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)
★「植物で見る万葉の世界」 (國學院大學「万葉の花の会」発行)
★「大伴家持 波乱にみちた万葉歌人の生涯」 藤井一二 著 (中公新書)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」