万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その1635)―福井県美浜町 若狭 三方レインボーライン第1駐車場手前―万葉集 巻七 一一七七

●歌は、「若狭にある三方の海の浜清みい行き帰らひ見れど飽かぬかも」である。

福井県美浜町 若狭 三方レインボーライン第1駐車場手前 万葉歌碑(作者未詳)

●歌碑は、福井県美浜町 若狭 三方レインボーライン第1駐車場手前にある。

 

●歌をみていこう。

 

 この歌は、前稿(その1634)で紹介したのと同じである。

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◆若狭在 三方之海之 濱清美 伊徃變良比 見跡不飽可聞

      (作者未詳 巻七 一一七七)

 

≪書き下し≫若狭(わかさ)にある三方(みかた)の海(うみ)の浜清みい行き帰(かへ)らひ見れど飽(あ)かぬかも

 

(訳)若狭の国にある三方の海の浜が清らかなので、行きつ戻りつしながら、見ても見ても見飽きることがない。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)三方の海:福井県三方湖。(伊藤脚注)

(注)-み 接尾語:①〔形容詞の語幹、および助動詞「べし」「ましじ」の語幹相当の部分に付いて〕(…が)…なので。(…が)…だから。▽原因・理由を表す。多く、上に「名詞+を」を伴うが、「を」がない場合もある。②〔形容詞の語幹に付いて〕…と(思う)。▽下に動詞「思ふ」「す」を続けて、その内容を表す。③〔形容詞の語幹に付いて〕その状態を表す名詞を作る。④〔動詞および助動詞「ず」の連用形に付いて〕…たり…たり。▽「…み…み」の形で、その動作が交互に繰り返される意を表す。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)ここでは①の意

(注)いゆく【い行く】自動詞:行く。進む。 ※「い」は接頭語。上代語。(学研)

(注)かへらふ【帰らふ・還らふ・反らふ】分類連語:①次々と(度々(たびたび))かえる。②繰り返す。③しきりに…する。 ⇒なりたち:動詞「かへる」の未然形+反復継続の助動詞「ふ」(学研)ここでは①の意

 

 歌碑の或るところの眼下に広がる浜辺は水月湖のではあるが、「浜清みい行き帰(かへ)らひ見れど飽(あ)かぬかも」と詠うにピッタリである。しばらく見とれていた。

歌碑と眼下の水月湖のきれいな浜の曲線

三方五湖の遠望


 三方レインボーラインは、美浜・若狭町にかけてひろがる、有料道路(普通車:1,060円)である。お目当ての万葉歌碑は、第一駐車場の手前にある。リフト・ケーブルカーで上った先には山頂公園がある。万葉歌碑優先であるので、山頂公園には行かずじまいである。

 第一駐車場に車を停め、上って来た道を少し下りると歌碑のある小さな広場がある。そこからの三方五湖の景色も雄大で美しい。

三方五湖周辺のおいたちと生物(野鳥)」説明案内板

 広場には、「三方五湖周辺のおいたちと生物(野鳥)」という説明案内板が建てられている。

 三方五湖周辺の山々は約2億年前の隆起によるものであり、その後2万年前の氷河期の影響で海面が下がり、内陸の湖になったそうである。三方五湖周辺には色々な野鳥が生息しており、数少ないワシ類もこの地にやってくる旨が書かれている。

 

 

三方五湖」については、「コトバンク 株式会社平凡社百科事典マイペディア」によると、「福井県南西部、若狭湾岸の水月、三方、菅(すが)、久々子(くぐし)、日向(ひるが)5湖の総称(名勝)。前3者は一続きの湖で後2者は丘陵で隔てられる。三方湖のみ淡水湖。《万葉集》に三方の海とみえ、歌学書には歌名所としてあげられる。漁業資源にも恵まれ、江戸時代には鰻などをめぐる出入があった。若狭湾国定公園に属し、特に梅丈岳からのながめは美しい。2005年11月にラムサール条約登録湿地となる。釣・海水浴の適地。早瀬から遊覧船,敦賀駅からバス。」と書かれている。

 三方五湖という地名は知っていても、これまで一度も来たことがなかった。万葉歌碑のお蔭で現地まで来て素晴らしい景色に心奪われたのである。

万葉歌碑、いな、万葉集様々である。

 

 

■三方観世音⇒三方五湖レインボーライン第1駐車場下■

 レインボーライン(有料)第1駐車場を目指す。駐車場に上りきる手前左手に歌碑が建てられている。

 三方五湖の景色を見わたせる絶景ポイントである。

 11月の日本海は、荒れ狂い、茶色っぽい白波が濃い灰色の海に立ち冬の日本海の姿を見せていたが、今回は打って変わり、青空のした、白波一つたたない穏やかなブルーの海であった。天候までリベンジとなったのである。

歌碑と三方五湖の眺望

 料金所でもらったパンフレット「三方五湖に浮かぶ天空のテラス」は、「こころにキュン♡ とっておきの景色を、あなたと。」とキャッチコピーが書かれている。目を通してみると見どころ満載である。じっくりと訪れ観光気分にひたってもよいかなと思ってしまう。

 しかし、今は、万葉集にキュンである。

レインボーライン途中からの日向湖の眺望



 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク 株式会社平凡社百科事典マイペディア」

★「三方五湖に浮かぶ天空のテラス」 (レインボーラインパンフレット)