●歌は、「やすみしし 我ご大君の 畏きや 御陵仕ふる 山科の 鏡の山に 夜はも 夜のことごと 昼はも 日のことごと 哭のみを 泣きつつありてや ももしきの 大宮人は 行き別れなむ(額田王 2-155)」である。
【天智天皇陵】
「額田王(巻二‐一五五)(歌は省略)天智天皇陵は、京都市<山科区御陵上御廟野町>にあって、・・・御陵から後方にかけての山を鏡山といったので鏡山陵と呼ばれる。・・・称制の六年目、都を近江大津に遷して即位した。天皇の一〇年(六七一)九月ごろから病魔におかされ一二月三日大津宮に亡くなられた。その一〇月中旬大海人皇子の吉野入りにはじまって翌年(六七二)壬申の乱によって大津宮が壊滅に帰したこと、もと大海人皇子の妃の額田王を近江の後宮に入れられたことなどあまりにも知られている。
この歌は御陵の奉仕を終って退出するときの額田王の歌で、夜昼なく泣きに泣いた人々もちりぢりに別れねばならぬ時の、かなしみの儀礼の歌であろう。天皇の生涯は一路、中央集権への道をめざして、内憂外患、多事多難な時代であった。天皇は多くの犠牲をふみこえたはてに後顧の憂いのただ中で他界されたといってよい。」(「万葉の旅 中 近畿・東海・東国」 犬養 孝 著 平凡社ライブラリーより)
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巻二 一五五歌をみてみよう。
■巻二 一五五歌■
題詞は、「従山科御陵退散之時額田王作歌一首」<山科(やましな)の御陵(みはか)より退(まか)り散(あら)くる時に、額田王が作る歌一首>である。
(注)山科(やましな)の御陵(みはか):天智天皇陵。京都市山科区。(伊藤脚注)
(注)御陵(みはか)より退(まか)り散(あら)くる時:墓陵奉仕が終わって大宮人たちが退散する時に。(伊藤脚注)
◆八隅知之 和期大王之 恐也 御陵奉仕流 山科乃 鏡山尓 夜者毛 夜之盡 晝者母 日之盡 哭耳呼 泣乍在而哉 百礒城乃 大宮人者 去別南
(額田王 巻二 一五五)
≪書き下し≫やすみしし 我(わ)ご大君(おほきみ)の 畏(かしこ)きや 御陵仕ふる 山科の 鏡(かがみ)の山に 夜(よる)はも 夜(よ)のことごと 昼はも 日のことごと 哭(ね)のみを 泣きつつありてや ももしきの 大宮人(おほみやひと)は 行き別れなむ
(訳)八方を知ろしめす我が大君の、恐れ多い御陵にお仕え申し上げる、その山科の鏡の山で、夜は夜通し、昼はひねもす、声をあげて哭(な)きつづけてきて、このまま、ももしきの大宮人は散り散りに別れて行かねばならないのであろうか。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)
(注)かしこし【畏し】形容詞:①もったいない。恐れ多い。②恐ろしい。恐るべきだ。③高貴だ。身分が高い。貴い。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
(注)よのことごと【夜の悉】分類連語:夜通し。一晩じゅう。(学研)
(注)鏡の山:山科御陵の北の山という。(伊藤脚注)
(注)夜はも、以下、八日八夜哭き続ける古い殯宮儀礼を投影する表現。(伊藤脚注)
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1139)」で、額田王の歌十二首(四首については疑問視する説もある)すべてとともに紹介している。
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天智天皇山科陵については、京都市HP「やましなを歩く東海道4御陵」に次のように書かれている。
「旧東海道日岡峠を東に下って、平坦になる辺りには、かつて一里塚があった。そのまま東へ向かい、三条通に出ると、天智天皇陵参道入口が見える。入口左側には、天皇が漏刻(水時計)をつくり時刻制度を定めたことにちなみ、昭和13年6月に京都時計商組合が建立した垂直型日時計がある。
その昔、天皇陵あたりを御廟野と呼び、江戸初期の地誌『出来斎京土産(できさいきょうみやげ)』には、「此の野への名を忘れなば犬の声只ひゃうひゃうとひろき御廟野」とある。天智天皇は671年12月3日、大津宮で崩御。御陵の土地が選定されたが、壬申の乱が起こり、天智天皇の死後28年たった699年に、山陵修営官が任命された。・・・『万葉集』の額田王の歌「やすみしし わご大君の かしこきや 御陵仕ふる 山科の 鏡の山に 夜はも 夜のことごと 昼はも 日のことごと 哭のみを 泣きつつ在りてや 百磯城(ももしき)の 大宮人は去き別れなむ」は良く知られている。・・・現在、墳丘等は見ることができないが、『天智天皇山科陵の墳丘遺構』(『書陵部紀要』39号・昭和63年)掲載図からの推定では、墳丘は上円下方墳で、下段方形部は1辺約70メートル、上円部は直径約40メートル、高さ約8メートルで、上円部は截頭八角錐(せっとうはっかくすい)とある。」

京都市HP「やましなを歩く東海道4御陵」より引用させていただきました。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「万葉の旅 中 近畿・東海・東国」 犬養 孝 著 (平凡社ライブラリー)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」