●歌は、「磯の上のつままを見れば根を延へて年深くあらし神さびにけり(大伴家持 19-4159)」である。
【つまま】
「大伴家持(巻十九‐四一五九)(歌は省略) 天平勝宝二年(七五〇)三月九日春の出挙(すいこ)のために、家持が国庁からいまの氷見(ひも)市布勢南方の旧江(ふるえ)村にゆく途中、渋谿(しぶたに)崎を過ぎて岩上に樹を見てよんだ歌である。『つまま』の木は異説も多いが、こんにちではタブノキ、タモノキ、一名グスという樟(くす)科の植物とみるのが定説のようである。暖地性常緑喬木で葉は樟に似て、老木になると根を盛り上がるように長く延ばし、いかにも年古(ふ)りて神厳な感をおぼえさせる大樹となる。越中のような北国にこの木があるのは、夏のころ対馬海流の暖流が沿岸を洗うからで、日本海岸はあたりまで見られるという。・・・家持は道の途次、渋谿崎のの岩上の磐根を露出した見なれぬ大樹におどろき、なによりもまだ耳にしたことのない『つまま』の名に異郷の風土を感じたのだろう。題詞の下に註を入れて樹名都万麻としているのでもわかる。しかも神さびた実景に悠久の時の刻みを感じているのだ。はやく近世加賀藩の人肝煎(きめる)宗九郎はこれをタモノキと考証して安政五年(一八五八)渋谿崎のタモノキのわきに歌碑をたてた。・・・家持はこのほか葦付(あしつき)(ノリの一種)・厚朴(ほほがしわ)・堅香子(かたかご)・鯯(つなし)など、かの東風(あゆのかぜ)の語とともに、この地に来てはじめて接した動植物・方言に興趣を感じ異風土への好奇と関心を示している。」(「万葉の旅 下 山陽・四国・九州・山陰・北陸」 犬養 孝 著 平凡社ライブラリーより)
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巻十九 四一五九歌をみていこう。
■■巻十九 四一五九~四一六五歌■■
四一五九歌から四一六五歌までの歌群の総題は、「季春三月九日擬出擧之政行於舊江村道上属目物花之詠并興中所作之歌」<季春三月の九日に、出擧(すいこ)の政(まつりごと)に擬(あた)りて、古江の村(ふるえのむら)に行く道の上にして、物花(ぶつくわ)を属目(しょくもく)する詠(うた)、并(あは)せて興(きよう)の中(うち)に作る歌>である。
■巻十九 四一五九歌■
題詞は、「過澁谿埼見巌上樹歌一首 樹名都萬麻」<澁谿(しぶたに)の埼(さき)を過ぎて、巌(いはほ)の上(うへ)の樹(き)を見る歌一首 樹の名はつまま>である。
(注)「つまま」は、たぶの木。クスノキ科の常緑高木。葉は樟に似て、老樹は根が盛り上がって荘厳。(伊藤脚注)
◆礒上之 都萬麻乎見者 根乎延而 年深有之 神佐備尓家里
(大伴家持 巻十九 四一五九)
≪書き下し≫磯(いそ)の上(うへ)のつままを見れば根を延(は)へて年深くあらし神(かむ)さびにけり
(訳)海辺の岩の上に立つつままを見ると、根をがっちり張って、見るからに年を重ねている。何という神々しさであることか。(伊藤 博 著 「万葉集 四」 角川ソフィア文庫より)</p
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(注)年深く:漢語「年深」の翻読語。(伊藤脚注)
(注の注)としふかし【年深し】( 形ク ):何年も経っている。年老いている。(weblio辞書 三省堂 大辞林 第三版)
(注)あらし 分類連語:あるらしい。あるにちがいない。 ※なりたち ラ変動詞「あり」の連体形+推量の助動詞「らし」からなる「あるらし」が変化した形。ラ変動詞「あり」が形容詞化した形とする説もある。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その867)」で、高岡市太田 つまま公園万葉歌碑ならびに四一五九歌から四一六五歌までの歌群とともに紹介している。
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碑文の前半には、「・・・この歌碑は、安政五年(一八五八)に太田村伊勢領の肝煎(きもいり)(村長)宗九郎(そうくろう)が建立したものとされ、高岡では、最も古い万葉歌碑である。宗九郎は、相当の学問があり万葉集にも関心が高く、特に、都萬麻(つまま)はタモノキであると推定して一本のタモノキとこの碑を置いたとされるが、永年の風食により碑の文字を判読するのは難しい。都萬麻は、クスノキ科の常緑高木で一般にもタモまたはタブノキと呼ぶイヌグスのこととされている。老木は根が盛り上がり神々しい姿である。このことから神聖な木として扱われることが多い・・・」と書かれている。 また、後半は、家持が越中国射水郡渋谷の崎で根を露出した見慣れない大樹に驚き、初めて聞く「都万麻」(つまま)の名に異郷の風土を感じ、この歌を詠い、眼前の光景が未来永劫に続くことを願って「都万麻」の歌を詠じたと書かれている。
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「万葉の旅 下 山陽・四国・九州・山陰・北陸」 犬養 孝 著 (平凡社ライブラリー)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」
★「碑文(歌意)説明案内板」