「『なでしこ』は、家持が偏愛した花なのでした。・・・家持と坂上大嬢との間には、『なでしこ』に関わる思い出のあったことです。若い日の家持は、こんな歌を大嬢に贈っているのです。
(春の相聞 巻八の一四四八)(歌は省略)
この歌は巻八の『春の相聞(そうもん)』の冒頭に位置する歌です。したがって、秋の開花を『いつしかも』と待つ歌なのです。しかし、それはそのまま、大嬢の女性としての成長を待つ歌となっています。家持は、それを『なでしこ』の開花と重ね合わせているのです。ときに、天平五(七三三)年春のことです。・・・」(「万葉集の心を読む」 上野 誠著 角川ソフィア文庫より)
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春の相聞 巻八 一四四八歌をみていこう。
■巻八 一四四八歌■
題詞は、「大伴宿祢家持贈坂上家之大嬢歌一首」<大伴宿禰家持が、坂上家(さかのうえのいへ)の大嬢に贈る歌一首>である。
(注)坂上家の大嬢:大伴宿奈麻呂と大伴坂上郎女の娘。家持の正妻。(伊藤脚注)
◆吾屋外尓 蒔之瞿麦 何時毛 花尓咲奈武 名蘇経乍見武
(大伴家持 巻八 一四四八)
≪書き下し≫我がやどに 蒔(ま)きしなでしこ いつしかも 花に咲きなむ なそへつつ見む
(訳)わたしの家の庭に 蒔いたなでしこの花 いつになったら 花は咲くのだろうか その花を君だと思って 僕は見るだろう 僕は見る(「万葉集の心を読む」 上野 誠著 角川ソフィア文庫より)
(注)なでしこ:撫でし子の意を強く匂わす。(伊藤脚注)
(注)いつしかも:早く咲いてほしいという願望。大嬢の成長への期待。(伊藤脚注)
(注の注)いつしかも 【何時しかも】分類連語:〔下に願望の表現を伴って〕早く(…したい)。今すぐにも(…したい)。 ⇒なりたち:副詞「いつしか」+係助詞「も」(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)
(注)「なそふ」はなぞらえる。花そのものを大嬢として見る意。(伊藤脚注)
(注の注)なそふ 【準ふ・擬ふ】他動詞:なぞらえる。他の物に見立てる。 ※後には「なぞふ」とも。(学研)
この歌については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その168改)」で奈良県高市郡明日香村 雷橋上流100mほどの右岸、飛鳥川沿い万葉歌碑とともに紹介している。
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(大伴家持 8-1448) 20190708撮影
(参考文献)
★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)
★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」