万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉集の世界に飛び込もう(その3287)―万葉一日一葉 「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)より」―むぐら[カナムグラ]

●歌は、「いかならむ時にか妹を葎生の汚なきやどに入りいませてむ(大伴田村大嬢 8-759)

「むぐら[カナムグラ]」 岡山理科大学HPより引用させていただきました。

 「集中に『葎』を詠う歌は4首。が、歌を見る限り、藪をつくる、恐らく蔓性の草本であることの外は、種は判然としない。・・・藪を枯らして己がひとり蔓延ってはビンボウカズラとも仇名されるヤブカラシ、あるいはノブドウもイメージできる。この2種とカナムグラに共通することは、葉が掌状を呈することである。這い延びる蔓の先の掌のかたちの葉に、愛しきひと、大切な貴人のもとへ詮無く差し伸べた我が手を見て取り、自分がいかに待ち焦がれていたかを、或いは、蔓草に掠め捕られて身動きもできずにいたことに託して灼けつくような胸のうちを届かぬひとへ訴えているのかもしれない。」(「植物で見る万葉の世界」(國學院大學「万葉の花の会」発行)より)

 

●歌をみていこう。

■■巻四 七五六~七五九歌■■

 題詞は、「大伴田村家之大嬢與妹坂上大嬢歌四首」<大伴(おほとも)の田村家(たむらのいへ)の大嬢(おほいらつめ)、妹(いもひと)坂上大嬢に与ふる歌四首>である。

(注)四首:この頃の固定的な主題、「近くて遠い恋」を歌う。(伊藤脚注)

 

 

■巻四 七五六歌■

◆外居而 戀者苦 吾妹子乎 次相見六 事計為与

       (大伴田村大嬢 巻四 七五六)

 

≪書き下し≫外(よそ)に居(ゐ)て恋ふれば苦し我妹子(わぎもこ)を継ぎて相見(あひみ)む事計(ことはか)りせよ

 

(訳)離れた所にいて恋い慕っているのは苦しいものです。あなたとひっきりなしに逢えるような工夫をして下さいな。(「万葉集 一」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より

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感想(1件)

(注)ことはかり【事計り】名詞:取り計らい。手だて。(学研)

 

              

■巻四 七五七歌■

◆遠有者 和備而毛有乎 里近 有常聞乍 不見之為便奈沙

      (大伴田村大嬢 巻四 七五七)

 

≪書き下し≫遠くあらばわびてもあらむを里近くありと聞きつつ見ぬがすべなさ

 

(訳)あなたが遠くにいらっしゃるのなら、あきらめてわびしく過ごせましょうが、この里近くにお住いと聞きながら逢えないとは、まことにもってもどかしいことです。(同上)

(注)わぶ【侘ぶ】自動詞:つらく思う。せつなく思う。寂しく思う(学研)

 

 

■巻四 七五八歌■

◆白雲之 多奈引山之 高ゝ二 吾念妹乎 将見因毛我母

       (大伴田村大嬢 巻八 七五八)

 

≪書き下し≫白雲のたなびく山の高々(たかだか)に我(あ)が思ふ妹(いも)を見むよしもがも

 

(訳)白雲のたなびく山が高く聳え立つように、私が高々と爪立ちする思いで恋い焦がれるあなた、そんなあなたに繁々と逢う手立てはないものでしょうか。(同上)

(注)上二句は序。「高々に」を起こす。(伊藤脚注)

(注)高々に:高々と爪立ちする思いで。「待つ」にかかるのが普通。(伊藤脚注)

(注の注)たかだかなり【高高なり】形容動詞:(待ち望んで)高く背のびをして見ている。(学研)

(注)もがも 終助詞:《接続》体言、形容詞・断定の助動詞の連用形などに付く。〔願望〕…があったらなあ。…があればいいなあ。 ※上代語。終助詞「もが」に終助詞「も」が付いて一語化したもの。(学研)

 

■巻四 七五九歌■

◆何 時尓加妹乎 牟具良布能 穢屋戸尓 入将座

        (大伴田村大嬢 巻八 七五九)

 

≪書き下し≫いかならむ時にか妹を葎生(むぐらふ)の汚(きた)なきやどに入れいませてむ

 

(訳)いったいいつになったら、あなたをこのむぐらの茂るむさ苦しい家にお迎えできますでしょうか。(「万葉集 一」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)葎生:葎の茂る所。(伊藤脚注)

(注の注)むぐらふ【葎生】名詞:「むぐら」の生い茂っている所。(学研)

(注の注の注)むぐら【葎】名詞:山野や道ばたに繁茂するつる草の総称。やえむぐら・かなむぐらなど。 ⇒参考 「浅茅(あさぢ)」「蓬(よもぎ)」とともに、荒れ果てた家や粗末な家の描写に用いられることが多い。(学研)

(注)入れいませてむ:迎え入れて座に着かせることができるのだろうか。ぜひ迎え入れたいという挨拶で、結び。(伊藤脚注)

 

左注は、「右田村大嬢坂上大嬢並是右大辨大伴宿奈麻呂卿之女也 卿居田村里号曰田村大嬢 但妹坂上大嬢者母居坂上里 仍曰坂上大嬢 于時姉妹諮問以歌贈答」<右、田村大嬢、坂上大嬢は、ともにこれ右大弁(うだいべん)大伴宿奈麻呂卿(おほとものすくなまろのまへつきみ)が女(むすめ)なり。 卿、田村の里に居(を)れば、号(なづ)けて田村大嬢といふ。ただし妹(いもひと)坂上大嬢は、母、坂上の里に居る。よりて坂上大嬢といふ。時に姉妹、諮問(とぶら)ふに歌をもちて贈答す>である。

(注)田村の里:佐保の西。法華寺付近という。(伊藤脚注)

(注)坂上の里:田村の里を北西に遡った歌姫越えあたりか。(伊藤脚注)

 

●当該歌の歌碑をみてみよう。

 残念ながら、歌碑は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫)

★「植物で見る万葉の世界」 (國學院大學「万葉の花の会」発行)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「岡山理科大学HP」