万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その2153)―滋賀県(3)米原市・長浜市(その2)―

長浜市湖北町 早崎尾上片山園地(野田沼畔)万葉歌碑(巻三 三五二)■

長浜市湖北町 早崎尾上片山園地(野田沼畔)万葉歌碑(若湯座王) 
20200129撮影

●歌をみていこう。

 

◆葦邊波 鶴之哭鳴而 湖風 寒吹良武 津乎能埼羽毛

       (若湯座王 巻三 三五二)

 

 

≪書き下し≫葦辺(あしへ)には鶴(たづ)がね鳴きて港風(みなとかぜ)寒く吹くらむ津乎(つを)の崎はも

 

(訳)今頃、葦辺(あしべ)には鶴が鳴いて港風が寒々と吹いているのであろう、ああ、あの津乎(つお)の崎よ。(伊藤 博 著 「万葉集 一」 角川ソフィア文庫より)

(注)津乎の崎:所在未詳。(伊藤脚注)

(注)朝日の里・津乎崎(あさひのさと・つおのさき):滋賀県東浅井郡湖北町朝日の里・津乎崎 町域北西部に比定される古地名。元暦元年(一一八四)の「近江国注進風土記」に「朝日里、浅井」とみえ、「和名抄」記載の浅井郡一三郷の一に朝日郷がある。「八雲御抄」は「あさひのさと」を歌枕とし、「金葉集」によれば藤原敦光朝臣が「くもりなきとよのあかりにあふみなるあさひのさとはひかりさしそふ」と詠じており、「新古今集」には「長和五年、大嘗会悠紀方風俗歌」の詞書を付す祭主輔親の「あかねさす朝日のさとのひかげぐさ豊明のかざしなるべし」の歌が載る。(コトバンク 平凡社「日本歴史地名大系」)

 

 題詞は、「若湯座王歌一首」<若湯座王(わかゆゑのおほきみ)が歌一首>である。

(注)若湯座王:伝未詳。万葉集にはこの一首のみ。

 

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感想(1件)

 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その404)」で紹介している。

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長浜市木之本町 長浜市役所・木之本支所万葉歌碑(巻八 一五三三)■

長浜市木之本町 長浜市役所・木之本支所万葉歌碑(笠金村) 20200129撮影

●歌をみていこう。

 

◆伊香山 野邊尓開者 芽子見者 公之家有 尾花之所念

         (笠金村    巻八 一五三三)

 

≪書き下し≫伊香山(いかごやま)野辺(のへ)に咲きたる萩見れば君が家なる尾花(をばな)し思ほゆ

 

(訳)伊香山、この山の野辺に咲いている萩を見ると、あなた様のお屋敷の尾花が思い出されます。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

 

題詞は、「笠朝臣金村伊香山作歌二首」<笠朝臣金村、伊香山(いかごやま)にして作る歌二首>である。

(注)いかごやま【伊香胡山・伊香山】:滋賀県伊香郡木之本町にある山。歌の名所。(コトバンク 精選版 日本国語大辞典

 

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その403)」で紹介している。

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滋賀県長浜市 賤ヶ岳山頂(1)万葉歌碑(巻八 一五三二)■

滋賀県長浜市 賤ヶ岳山頂(1)万葉歌碑(笠金村) 20220623撮影

●歌をみていこう。

 

草枕 客行人毛 往觸者 尓保比奴倍久毛 開流芽子香聞  

     (笠金村 巻八 一五三二)

 

≪書き下し≫草枕(くさまくら)、旅行く人も行き触(ふ)ればにほひぬべくも咲ける萩(はぎ)かも

 

(訳)旅行く人が行ずりに触れでもしたら、着物に色が染まってしまうばかりに、咲き乱れている萩の花よ。(「万葉集 二」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)くさまくら【草枕】分類枕詞:旅にあっては草を結んで枕とし、夜露にぬれて仮寝をしたことから「旅」「旅寝」や同音の「度(たび)」、地名の「多湖(たご)」、草の枕を「結(ゆ)ふ」から「夕(ゆふ)」、夜露にぬれるから「露」、仮寝から「かりそめ」などにかかる。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

(注)にほふ【匂ふ】自動詞:①美しく咲いている。美しく映える。②美しく染まる。(草木などの色に)染まる。③快く香る。香が漂う。④美しさがあふれている。美しさが輝いている。⑤恩を受ける。おかげをこうむる。 ここでは②の意。(学研)                  

 

 

 賤ヶ岳山頂にはもう1基笠金村の歌碑がある。こちらもみてみよう。

滋賀県長浜市 賤ヶ岳山頂(2)万葉歌碑(笠金村) 20220623撮影

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 こちらの歌は、上述の長浜市木之本町 長浜市役所・木之本支所万葉歌碑と同じであるので歌は省略させていただきます。

 

 金村の二首ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その1704,1705)」で紹介している。

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長浜市西浅井町 塩津北口バス停万葉歌碑(巻十一 二七四七)■

長浜市西浅井町 塩津北口バス停万葉歌碑(作者未詳) 20200129撮影

●同歌の歌碑は、同市西浅井町塩津浜 鹽津神社にもある。

 

同市西浅井町塩津浜 鹽津神社万葉歌碑(鳥居手前の石柱) 20200129撮影

●歌をみていこう。

 

◆味鎌之 塩津乎射而 水手船之 名者謂手師乎 不相将有八方

      (作者未詳 巻十一 二七四七)

 

≪書き下し≫あぢかまの塩津(しほつ)をさして漕ぐ舟の名は告(の)りてしを逢はずあらめやも

 

(訳)あじかまの塩津を目指して漕ぎ進む舟が大声で名を告げるように、はっきりと私の名はうち明けたのだもの。逢って下さらないなんていうことがあるはずはない。(伊藤 博 著 「万葉集 三」 角川ソフィア文庫より)

(注)あぢかまの:未詳。塩津の枕詞か。上三句は序。「名は告りてし」を起す。出航に際して大声で舟の名を告げる慣習によるか。(伊藤脚注)

(注)塩津:琵琶湖北東端の港。北陸道の入り口。(伊藤脚注)

 

 

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 この歌ならびに塩津北口バス停万葉歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その401)」で、鹽津神社の歌碑については、同「同(その402)」で紹介している。

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滋賀県長浜市西浅井町菅浦 須賀神社万葉歌碑(巻九 一七三四)■

滋賀県長浜市西浅井町菅浦 須賀神社万葉歌碑(小弁) 20200129撮影

●歌をみていこう。

 

◆高嶋之 足利湖乎 滂過而 塩津菅浦 今香将滂

          (小弁 巻九 一七三四)

 

≪書き下し≫高島(たかしま)の安曇(あど)の港を漕(こ)ぎ過ぎて塩津(しほつ)菅浦(すがうら)今か漕ぐらむ

 

(訳)あの人は、高島の安曇の河口を漕ぎ過ぎて、今頃、塩津の浦か菅浦のあたりを漕ぎ進んでいるのであろうか。(伊藤 博 著 「万葉集 二」 角川ソフィア文庫より)

(注)塩津:琵琶湖北東端の港。北陸道の入り口。(伊藤脚注)

(注)菅浦:塩津の西側にある入江(伊藤脚注)

 

題詞は、「小辨歌一首」<小弁(せうべん)が歌一首>である。

(注)小弁:?-? 飛鳥(あすか)-奈良時代歌人太政官の左右弁官局の少弁(和名では「すないおおともい」)の職にあった官吏か。「万葉集」に歌がのる春日蔵老(かすがのくらの-おゆ)(僧名は弁基)の子ともいう。(コトバンク デジタル版 日本人名大辞典+Plus)       

 

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 この歌ならびに歌碑については、拙稿ブログ「万葉歌碑を訪ねて(その400)」で紹介している。

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 この日は、6時過ぎに家を出発、大津を経て湖西を走る。「道の駅 藤樹の里あどがわ」に着いたのは8時30分ごろであった。トイレ休憩と軽い朝食をすませ、須賀神社へと向かう。道の駅でもぼんやりとした虹を見たのであるが、須賀神社への途中湖面から立ち上がる虹が目に飛び込んできた。

車を止め、撮影タイムである。このような虹にお目にかかることができたのは、まさに早起きは三文の得である。万葉歌碑めぐりを忘れたかのように写真を撮りまくる。虹の端っこが湖面である。大きなアーチ。虹の端っこを見たのは生まれて初めてであった。

 

湖面からアーチを描く虹 20200129撮影

虹の端っこをとらえた! 20200129撮影

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 一」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 二」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「コトバンク デジタル版 日本人名大辞典+Plus」

★「コトバンク 精選版 日本国語大辞典

★「コトバンク 平凡社 日本歴史地名大系」