万葉集の歌碑めぐり

万葉歌碑をめぐり、歌の背景等を可能な限り時間的空間的に探索し、万葉集の万葉集たる所以に迫っていきたい!

万葉歌碑を訪ねて(その863,864,865)―射水市港町 奈呉の浦大橋欄干―万葉集 巻十七 三九八七、巻十七 四〇〇一、巻十七 四〇一七

―その863―

●歌は、「玉櫛笥二上山に鳴く鳥の声の恋しき時は来にけり」である。

 

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奈呉の浦大橋欄干(1)万葉歌碑(大伴家持

●歌碑(プレート)は、射水市港町 奈呉の浦大橋欄干(1)にある。   

 

●歌をみていこう。

この歌は、「二上山の賦」の短歌の一首である。ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その824)」で紹介している。

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◆多麻久之氣 敷多我美也麻尓 鳴鳥能 許恵乃孤悲思吉 登岐波伎尓家里

               (大伴家持 巻十七 三九八七)

 

≪書き下し≫玉櫛笥(たまくしげ)二上山に鳴く鳥の声の恋(こひ)しき時は来にけり

 

(訳)玉櫛笥二上山に鳴く鳥の、その声の慕わしくならぬ季節、待ち望んだ時は、今ここにとうとうやって来た。(「万葉集 四」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

 

 

 

―その864―

●歌は、「立山に降り置ける雪の常夏に消ずてわたるは神ながらとぞ」である。

 

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奈呉の浦大橋欄干(2)万葉歌碑(大伴家持

●歌碑(プレート)は、射水市港町 奈呉の浦大橋(2)にある。

 

●歌をみていこう。

この歌は、「立山の賦」の短歌の一首である。ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その826)」で紹介している。

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◆多知夜麻尓 布里於家流由伎乎 登己奈都尓 見礼等母安可受 加武賀良奈良之

               (大伴家持 巻十七 四〇〇一)

 

≪書き下し≫立山(たちやま)に降り置ける雪を常夏(とこなつ)に見れども飽かず神(かむ)からならし

 

(訳)立山に白々と降り置いている雪、この雪は夏の真っ盛りの今、見ても見ても見飽きることがない。神の品格のせいであるらしい。(「万葉集 四」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)-から【柄】接尾語:名詞に付いて、そのものの本来持っている性質の意を表す。「国から」「山から」  ※参考後に「がら」とも。現在でも「家柄」「続柄(つづきがら)」「身柄」「時節柄」「場所柄」などと用いる。(学研)

 

 

 

―その865―

●歌は、「あゆの風いたく吹くらし奈呉の海人の釣する小舟漕ぎ隠る見ゆ」である。

 

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奈呉の浦大橋欄干(3)万葉歌碑(大伴家持

●歌碑は、射水市港町 奈呉の浦大橋(3)にある。

 

●歌をみていこう。

この歌は、家持が、天平二十年正月の二十九日に作った四首のうちの一首である。ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その860)」で紹介している。

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◆東風<越俗語東風謂之安由乃可是也> 伊多久布久良之 奈呉乃安麻能 都利須流乎夫祢 許藝可久流見由

                (大伴家持 巻十七 四〇一七)

 

≪書き下し≫あゆの風(かぜ)<越の俗の語には東風をあゆのかぜといふ> いたく吹くらし奈呉(なご)の海人(あま)の釣(つり)する小舟(おぶね)漕(こ)ぎ隠(かく)る見(み)ゆ

 

(訳)東風(あゆのかぜ)<越(こし)の土地言葉で、東風を「あゆの風」という>が激しく吹くらしい。奈呉の海人(あま)たちの釣する舟が、今まさに浦風(うらかぜ)に漕ぎ隠れて行く。(「万葉集 四」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

 

 

奈呉の浦大橋は、奈呉の海沿いの県道240号線の瀟洒な橋である。欄干には5か所万葉歌碑(プレート)が設けられている。

 

万葉集には、「奈呉」を詠んだ歌が八首収録されている。

他の七首もみてみよう。

 

◆奈呉能安麻能 都里須流布祢波 伊麻許曽婆 敷奈太那宇知氐 安倍弖許藝泥米

               (秦忌寸八千嶋 巻十七 三九五六)

 

≪書き下し≫奈呉(なご)の海人(あま)の釣(つり)する舟は今こそば舟棚(ふなだな)打ちてあへて漕(こ)ぎ出(で)め

 

(訳)奈呉の浦の海人たちが釣りをする舟は、今こんな時こそ舟の棚板を威勢よく叩いて、押し切って漕ぎ出すがよい。(同上)

(注)ふなだな【船枻・船棚】名詞:船の両舷(りようげん)に取り付けてある板。舟子が櫓(ろ)や櫂(かい)をあやつる所。(学研)

 

 

◆奈呉能安麻能 意吉都之良奈美 志苦思苦尓 於毛保要武可母 多知和可礼奈婆

               (大伴家持 巻十七 三九八九)

 

≪書き下し≫奈呉(なご)の海の沖つ白波しくしくに思ほえむかも立ち別れなば             

 

(訳)奈呉の海の沖の白波、その波がひきもきらさずに立つように、ひっきりなしに思われることでしょう。旅立ってお別れしてしまったならば。(同上)

 

 

◆美奈刀可是 佐牟久布久良之 奈呉乃江尓 都麻欲妣可波之 多豆左波尓奈久 <一云 多豆佐和久奈里>

               (大伴家持 巻十七 四〇一八)

 

≪書き下し≫港風(みなとかぜ)寒く吹くらし奈呉の江に妻呼び交(かは)し鶴(たづ)多(さは)に鳴く <一には「鶴騒くなり」といふ>

 

(訳)川口の風が寒々と吹くらしい。奈呉の入江では、連れ合いを呼び合って、鶴がたくさん鳴いている。<鶴の鳴き立てる声がする>(同上)

(注)みなとかぜ【港風】:河口または港のあたりに吹く風。(goo辞書)

 

 

◆奈呉乃宇美尓 布祢之麻志可勢 於伎尓伊泥弖 奈美多知久夜等 見底可敝利許牟

               (田辺福麻呂 巻十八 四〇三二)

 

≪書き下し≫奈呉の海に舟しまし貸せ沖に出(い)でて波立ち来(く)やと見て帰り来(こ)む

 

(訳)あの奈呉の海に乗り出すのに、どなたか、ほんのしばし舟を貸してください。沖合に漕ぎ出して行って、波が立ち寄せて来るかどうか見て来たいものです。(「万葉集 四」 伊藤 博 著 角川ソフィア文庫より)

(注)奈呉の海:海は、家持の館から眼に入ったのであろう。山国の大和から来た福麻呂には珍しい景色に映ったのであろう。

(注)しまし【暫し】副詞:「しばし」に同じ。 ※上代語。(weblio古語辞典 学研全訳古語辞典)

 

◆奈美多氐波 奈呉能宇良未尓 余流可比乃 末奈伎孤悲尓曽 等之波倍尓家流

               (田辺福麻呂 巻十八 四〇三三)

 

≪書き下し≫波立てば奈呉の浦廻(うらみ)に寄る貝の間(ま)なき恋にぞ年は経(へ)にける

 

(訳)波が立つたびに奈呉の入江に絶え間なく寄って来る貝、その貝のように絶え間もない恋に明け暮れているうちに、時は年を越してしまいました。(同上)

(注)上三句は序。「間なき」を起こす。

 

 

 

◆奈呉能宇美尓 之保能波夜非波 安佐里之尓 伊泥牟等多豆波 伊麻曽奈久奈流

               (田辺福麻呂 巻十八 四〇三四)

 

≪書き下し≫奈呉の海に潮の早干(はやひ)ばあさりしに出でむと鶴(たづ)は今ぞ鳴くなる

 

(訳)この奈呉の海で、潮が引いたらすぐに餌を漁(あさ)りに出ようとばかりに、鶴(たず)は、今しきりに鳴き立てています。(同上)

 

 

四〇三二から四〇四四歌は、ブログ拙稿「万葉歌碑を訪ねて(その843)」で紹介している。

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◆安由乎疾 奈呉乃浦廻尓 与須流浪 伊夜千重之伎尓 戀度可母

               (大伴家持 巻十九 四二一三)

 

≪書き下し≫東風(あゆ)をいたみ奈呉(なご)の浦廻(うらみ)に寄する波いや千重(ちへ)しきに恋ひわたるかも

 

(訳)東風(あゆ)の風が激しく吹いて、奈呉の浦辺に幾重にもうち寄せる波、その波のように、いよいよしきりに恋しく思いつづけています。(同上)

 

 

 

(参考文献)

★「萬葉集」 鶴 久・森山 隆 編 (桜楓社)

★「万葉集 三」 伊藤 博 著 (角川ソフィア文庫

★「「大伴家持 波乱にみちた万葉歌人の生涯」 藤井一二 著 (中公新書

★「古代史で楽しむ万葉集」 中西 進 著 (角川ソフィア)

★「weblio古語辞典 学研全訳古語辞典」

★「goo辞書」

★「万葉歌碑めぐりマップ」 (高岡地区広域圏事務組合)